キャリアの達人に聞く05
 
キャリアカウンセラー対談 第5回
留学で研究に邁進し、実社会に活かしていっく方法
現在、三菱電機(株)で防衛防災システムや宇宙に関わる最先端の研究開発に従事されている古市昌一さん。実務を積んだ上で留学をされた経験を踏まえ、研究職(理系)の留学で必要なことや、それを実社会にどう活かすかなどを語っていただいた。
理系留学で大切なのは、明確な目的

佐藤 古市さんは、コンピュータサイエンスの分野で最先端のお仕事をされていますが、具体的にはどんなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか?わかりやすく、今のお仕事内容を説明していただけますか?

古市

まず、留学前の仕事を簡単にご説明しましょう。私の仕事は人工知能の応用に関する研究なんです。人間の頭で推論することを、人の知識をルール化することによって、コンピュータで高速に実行するにはどうすればいいかを考えるんです。今は、この技術を使って、コンピュータの中でリアルワールド(実世界)をシミュレーションする仮想空間を作っています。テーマは「防衛」と「宇宙」です。「防衛」では、たとえば災害が起きたときに、人々がどんなルールに則って動くかを割り出して、どのような救助活動が一番有効かをシミュレートするための研究をしています。また「宇宙」では、宇宙飛行士には様々な訓練が必要なのですが、日本と米国に分散されたシミュレータ同士をネットワークで接続して、共同で訓練を行うための技術の研究をしています。

佐藤

一企業の研究というよりも、むしろ国家規模の大きなプロジェクトですね。

古市

そうですね。入社して意外だったことは、「国家レベルの、こんな大きな仕事をさせてもらえるんだ!」ということでしたから。

佐藤

留学はたしか33歳か34歳のときに、企業派遣の形でしたよね。年齢的に遅いとはお感じになりませんでしたか?

古市

私にはちょうどいいタイミングだと思いました。10年かけて人工知能の研究の成果を出して、次のステージに行くためには、イリノイ大学で学ぶ必要があった。理系というか、技術系の留学で最も大切なのは、この、「何を学び、それをどう使いたいのか」という目的です。
自分のやりたいことが明確だったら留年に年齢は関係ないと思いますね。 プレゼンテーション方法を叩きこまれた

佐藤 留学先はご自分で決められたんですよね。なぜアメリカのイリノイ大学だったんですか?

古市

まず、私が希望する「並列コンピュータのためのソフトウェア技術」を学べるのがイリノイ大学だったこと。あと、世界で初めて並列コンピュータを作ったのもイリノイ大学でしたし、1950〜60年頃には、私の大先輩にあたる研究者や企業の方々が、イリノイ大学に多く留学されていたんです。そこで「学ぶなら絶対この大学しかない」と思って。

佐藤

1年半の留学で、得たものは何でしたか?

古市

それはもちろん、学びたかった研究ができたことです。当時4,096台のCPUから構成されるスーパーコンピュータを使って、いかにプログラムを高速に実行させるかというソフトウェアを開発していたんですが、そこで結果が出せたのはホントに大きかったです。単位を取りながらの研究だったので、毎晩、子供をお風呂に入れた後の夜の7時から夜中の2時頃まで、研究室に戻って、コンピュータを動かしながら、仮説を検証していく。家族にも迷惑をかけたし、時間的にも大変だったけれど、今思うと、充実してたなあと思います。もうひとつは、プレゼンテーション能力。アメリカの大学では、どんな研究者でも、まず「自分が発想したアイディアや技術が、実生活でどう使われて、どう役立つのかを説明しなさい」と言われるんです。何故なら、そうしないとお金が取れないから。いくら私が「新しい技術の研究をしたい」と言っても、「何に使えるの? 誰に役立つの?」と、とことん聞かれるんです。相手を説得するプレゼンテーション能力は、留学中にたたき込まれ、育てられたと思っています。

佐藤

たしかに、自分が学んでいる技術が、実社会やビジネスの現場でどう活かされるのかを知っているのといないのとでは違うでしょうね。
研究内容が、世の中にどう役立ちどうお金になるかって、大切ですよね。 研究者はチームワークで仕事をする

佐藤 技術職・研究職と言うと、孤独を感じながら一人でコツコツと課題と向き合っているというイメージがありますが、実際にはいかがですか?

古市

それは、大きな誤解ですよ。技術職・研究職で最も大切なのはチームワークです。例えば留学先で研究していたソフトウェアはとても大規模なもので、僕の担当の「負荷バランス」だけでも4人の仲間で共同開発していました。もちろん一人でコツコツする作業もあるんですが、研究を進めていく上では、みんなでディスカッションをし合い、細かくコミュニケーションして助け合いながらやっていくことこそが大切なんです。大規模なソフトウェアの場合は特に、チームワークが最優先されます。

佐藤

コミュニケーションと言えば、もちろん英語ですよね。問題はありませんでしたか?

古市

うーん、英語で苦労した覚えはありません。英語は単なるツールだと思っていますし、海外旅行が好きで、英語で話すのは元々好きでした。ただね、留学する以上「ハロー」なんて言っているだけではしょうがなくて(笑)、やっぱり「私はこれがやりたいんだ」「私のアイディアはこの部分が新しいんだ」とアピールしなければならないから、そこは常に表明していました。言葉だけでは足りないなら、絵に描いたり、実際にプログラムを作って「これでどうだ!」って見せたりして。

佐藤

留学中に、一番印象的だった出来事を教えていただけますか?

古市

うーん。たくさんあるんですよね。でも、私が通っていた研究室の隣の建物に、マーク・アンドリーセンという学部生がいて、彼がインターネット・エクスプローラーの元となったMosaicというソフトを作ったんです。アルファー版が公開されたのが93年の1月だったかな。私はちょうど大学院生だったから、テストのお手伝いをしたんです。当時は、こんなに広く普及するとは思っていませんでしたが、もし私に先見の明があったら、彼を三菱電機に引っ張ってきたのにと思います(笑)。

佐藤

そういう「社会ですぐに役立つ技術・研究」を、アメリカの大学では自由にできるということですね。

古市

そうですね。


ユーザーの立場を考え、ユーザーが求めるものを実現するにはどうすればいいかを考えることが研究者・技術者の喜びですよね。
古市昌一
プロフィール
ふるいちまさかず/1982年広島大学総合科学部卒業。同年三菱電機・情報電子研究所に入社。人工知能の応用に関する研究に従事する。92年から企業派遣留学として、イリノイ大学アーバナシャンペン校コンピュータサイエンス学科で1年半学び、修士課程を終了。帰国後は同社情報技術総合研究所において、並列・分散型シミュレーションシステムの研究開発に従事。また2001年から慶應義塾大学大学院博士課程に在籍し、04年に工学博士を取得した。現在は鎌倉製作所において、モデリング&シミュレーションの事業化を推進中。米国シミュレーション学会・米国航空宇宙学会、情報処理学会など、多数の学会の会員を務める。
イリノイ大学小山八郎記念奨学金留学制度の2006年度運営委員。





イリノイ大学日本同窓会のニュースレター。奨学金制度の内容や奨学生の帰国後のレポートなどが紹介されている。





大切なのは「何を学びそれをどう使いたいか」。





技術職や研究職で最も大切なのはチームワークです。





佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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