キャリアの達人に聞く23
 
キャリアカウンセラー対談 第23回
人に何かを伝える文章力や話法とは?
1973年創刊の『朝日ウイークリー』は政治、経済からスポーツ、娯楽まで幅広い時事ニュースを日英バイリンガルでまとめた週刊英和新聞。英語学習者を中心に支持され、現在の発行部数は15万部を越える。2007年4月にはより幅広く読者のニーズに応えようと、新連載を含む紙面のリニューアルも予定されている同紙の、第11代目編集長鈴木和枝さんに、バイリンガルとしてのキャリアや留学体験などについてお話を伺った。
やる気と努力があれば、
人間はいくつになっても伸びるもの


佐藤 今回のインタビュー会場として鈴木さんにお誘いいただいたのが、この「外国人記者クラブ」です。政治家や要人の記者会見などがよく行われるので、テレビのニュースや新聞ではおなじみですが、一般人はそうそう入れる場ではないので緊張するとともに、とても光栄なのですが・・・。

鈴木

そうですね。その名の通り、会員制のクラブです。会員の多くは日本駐在の外国人記者ですが、私も10数年前から会員となっています。仕事柄、人との会合も多いですが、私のテリトリーである自社(朝日新聞社)に比べ、ここなら私にも相手にもニュートラルな場所。お互いにリラックスしやすいと思うので、よく利用します。

佐藤

お気遣い、ありがとうございます。では今日は、「キャリアの達人」ということで、鈴木さんには英文記者というお仕事や、ご自身の留学体験などについて伺っていきたいと思います。まず、『朝日ウイークリー』というと、英語学習者にとってとても身近なメディアとして定評があります。また日本語の注釈がついているので、英語初心者や留学希望者にとっても楽しめる新聞だと感じています。改めて鈴木編集長から紙面の特長や読者層などを教えてください。

鈴木

はい。読者層は幅広く、中学生から80歳代くらいです。中心は中高年層で、男性は定年後、女性は40〜50代が多いです。以前、93歳の方から感想ハガキが届いたこともありました。紙面はニュースや映画、音楽もあれば、学習コーナーもあります。

佐藤

受験生や学生が中心かと思っていましたが、幅広いですね。どんな風に読まれているのでしょう。

鈴木

20代以下は少なめなので、若い読者も広げたいという思いから、4月からは紙面をよりビジュアル化し、インタラクティブ性も高めるなど、リニューアルを予定しています。購読目的としては、受験生や留学希望者以外では、「視野を広げる」、「もう一度英語を勉強したい」、「孫と一緒に学びたい」など、「英語への向学心」の高い方が圧倒的です。やる気があって努力すれば、人間はいつまでも伸びる。年齢は関係ないんだと読者から教えられることも多いです。そんなニーズに応えられるように、いい素材を提供し、自然な形で楽しく読み続けることによって、「英語が好きになり、英語力がブラッシュアップできる紙面づくり」を目指しています。

佐藤

感想ハガキはどれくらい届くのですか。

鈴木

毎週平均して200通ほど届きます。予想以上に反響が大きくて驚いています。紙面内容に対する厳しいご意見などは編集に真摯に生かしたいと思いますし、「おかげで英語が読めるようになった」といった感想は嬉しく、励みになります。スタッフみなでありがたく読ませていただいています。とにかく、多くの読者がメールの時代にわざわざ手書きで送ってくださることに感動です。そんな想いに応えられるよう、襟を正して仕事をしなければと思っています。
「英語を学びたい」、「復習したい」といった読者の「向学心」に応えられるよう、編集サイドも襟を正して仕事に向かっています ——鈴木和枝さん/『朝日ウイークリー』編集長 英文記者といっても、
英語力より日本語力が先


佐藤 現在の編集体制について教えてください。

鈴木

編集長、副編集長に記者5人、デザイナー3人、外国人のコピーエディターと庶務がひとりずつの12人体制です。ほとんど30代〜40代で、半数は女性ですね。週刊紙制作としては少人数なので、ちょっと忙しいです。

佐藤

英字新聞の記者というと、みなバイリンガルで、留学経験者も多いのでしょうか。

鈴木

記者はみな英語ができますが、留学経験は必須ではありません。英語はあくまでも道具であって、それ以上に大事なのはジャーリストに必要な基礎能力です。たとえば、取材力や倫理観、そして国際的な興味。また、「やじうま根性」のある人も将来的な伸びが期待できますね。英文記者といっても英語力ばかりでなく、ジャーナリストとしての資質が先、ということを踏まえて挑戦してほしいですね。

佐藤

他に、『朝日ウイークリー』として特に要求する能力はありますか。

鈴木

日本語力ですね。『朝日ウイークリー』は記事の半分は日本語ですから。私自身、自分で書くときも、スタッフの原稿を読むときにも感じますが、和文英訳より英文和訳のほうが難しいものです。英文の内容全体を咀嚼(そしゃく)して的確な日本語に置き換えるには、高い日本語力が必須なのです。

佐藤

私がキャリアカウンセラーとして相談を受けるのは主に20代の方ですが、やはり全体的な印象として国語力や伝達力が落ちてきているように感じています。

鈴木

「自分が言いたいことを的確に伝える」という意味では、私が留学中に履修した「テクニカルライティング」という講座は今でもとても役立っています。論理的に考え、説得力ある文章にまとめるという学術論文執筆のための技術を学ぶ講座で、アメリカでは大学生の必修科目でした。

佐藤

具体的な内容をぜひ教えてください。

鈴木

学んだのは、「まず、これから言おうとすることを言う」、「次に、言うべきことを言う」、「最後にもう一度、言ったことを繰り返す」という、“論文の公式”です。そのためには、書き始める前に「何を言いたいのか」を自分で理解しておかねばなりません。これは論文だけでなく、一般の記事にも応用できます。また、英文和訳するときも原文の構成が理解しやすくなったりと、本当にためになりましたね。こんな風にシステム化された文章の書き方講座は、日本の教育制度にはないように思います。

佐藤

作文の授業で「起承転結」は習いましたが、少し違いますね。ただお話を聞いていて、人を説得する話法である、「PREP: Point, Reason, Example, Point」に似ているなと思いました。まず言うべき内容を示してから、その理由と例を挙げ、最後にもう一度言うべき内容に戻る。とにかく、「言うべきこと」を整理しておくことが伝達力を高めるポイントのようですね。

鈴木

以前、広島の秋葉忠利市長の取材で伺った話ですが、留学直前の高校生に対して、市長ご自身の過去の経験をもとに、「広島出身者は海外では原爆投下について聞かれることが多いので、予め質問と答えを想定し、その内容を書いて、暗記しておきましょう」とアドバイスされたそうです。「書くことで言いたいことを整理し、音読して記憶させる」、そういうテクニックですね。「一度も自分の言葉で考えたことのないことが出てくるはずはありません」と。

佐藤

一度書いてから声に出して消化する、というのはカウンセリングにも似ています。私は相談者の方にまず話してもらうことからカウンセリングを始めますが、「話しているうちに相談内容や悩みごとが整理されて理解できた」とおっしゃる方も多く、音読の効果を感じます。ところで、話がちょっと前後しますが、鈴木さんが「英文記者」という仕事に就かれたきっかけについてお聞かせください。鈴木さんが就職された頃は、マスコミでしかも英語を使う仕事は今以上に「憧れの仕事」だったのではないかと想像するのですが・・・。

「日本人が書く英語」へのジレンマ

鈴木 最初は、「ジャーナリストになりたい」という強い意志があったわけではないんです。大学では教育学部の英語科だったので、教職の道もありました。ただ、ペーパーバックを年に50冊も読む授業があり、苦労しながらも読むうちに世界が広がっていき、そのうち原文のまま読みたい、もっと知りたい、もっと書けるようになりたいという気持ちが強まっていきました。そんな風にして少しずつ、「英語」と「書くこと」が結びつく仕事への漠然とした憧れが芽生えていったように思います。

佐藤

卒業後は、『ジャパンエコー』という出版社に入社されています。きっかけは求人案内ですか?

鈴木

いえ、知人の紹介で募集を知り、試験を受けました。ジャパンエコーは日本の総合雑誌などの記事や論文をまとめた英文雑誌で、その編集職に配属されました。ラッキーだったのは、会社自体がまだ新しく、社員も約10人と小さく、日本人編集スタッフも3、4人という状況。ですから、普通の新聞社なら(見習いや研修など)段階を追うところを、私のようなノウハウのない新人にも、「書いてみたら」、「訳してみる?」とチャンスが与えられました。

佐藤

外国人スタッフに囲まれた現場で、生の、使える英語を身につけていったというわけですね。

鈴木

はい。英語科出身といってもすぐに英文記事が書けるわけではなく、最初はとても苦労しました。でも、何度も書き直すうちに、ある程度英文のパターンといったものを覚えていったんです。それに、一生懸命努力はしていましたから熱意は認めてもらえたし、自分ではあまり自信がない文章でも仕上げれば誉めてもらえました。

佐藤

それは励みになりますよね。

鈴木

そうですね。嬉しかったです。でも仕事にも慣れ、プロ意識が育まれていくにつれて、「日本人が書いた英語、という条件付き」でなく、もっときちんとした英文記事を書きたいという思いが強くなっていったんです。それで、「留学してジャーナリズムを学ぼう」と思い立ち、ロータリー財団の奨学生試験を受けたんです。
人に何かを伝えるという意味では、新聞記事も、カウンセリングも同じ。「何を言うべきか」を理解することが大切ですね。—— 佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー
鈴木和枝氏
プロフィール
すずきかずえ/茨城県生まれ。千葉大学教育学部卒業後、英文季刊誌ジャパンエコー誌で編集に携わる。英文編集者として活躍中の1979年、ロータリー財団の国際親善奨学生に選ばれ、米国アイオワ州立大学大学院に留学、ジャーナリズム学で修士号を取得。帰国後、英字新聞社、『リーダーズダイジェスト日本版』勤務後朝日新聞社入社。国際配信部、ジャパン・クォータリー編集部、ヘラルド朝日などを経て、2004年から現職。








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『朝日ウイークリー』は政治・経済、スポーツからエンターテインメントまで旬のテーマを取り上げ、英語を学びたい幅広い読者に支持されている。








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英文の内容全体を把握して的確な日本語に置き換えるには、高い日本語力が必須です。








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人に何かを『伝える』という意味では新聞記事もカウンセリングも同じですね。








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佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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