キャリアの達人に聞く27
 
キャリアカウンセラー対談 第27回
国際協力の仕事に必要なものは?
世界には紛争や貧困、食料不足などに苦しむ途上国が150以上もあるという。そういった途上国に対して、ODA(政府開発援助)を行っているのがJICA(Japan International Cooperation Agency)。2003年10月に前身の国際協力事業団を引き継ぎ、新しい理事長に元・国連難民高等弁務官の緒方貞子さんを迎えた新体制のもとで「人を通じた国際協力」を行う。そんなJICAで働くということ、その採用戦略について、人事部人事グループの佐久間潤さんからお話を伺った。
必要なのは特別なスキルではなく、
相手を理解するコミュニケーション力


佐藤 国際協力関係のお仕事というと、国連をはじめとした国際公務員などの国際機関がありますが、JICAの場合は公務員資格などは必要ないのでしょうか。

佐久間

はい。独立行政法人なので、特別そういった資格は必要ありません。毎年、春に30名程度と夏に若干名の合わせて2回、新卒採用を行っています。最近ではキャリアフェアにも積極的に参加するなど、一般の企業と同じように募集しています。

佐藤

HPでも詳しく書かれていましたが、7月に行われる『夏選考』は春の採用時期が留学期間に重なっている海外の留学生にとってはチャンスが拡がりますね。

佐久間

そうですね。やはり、留学生で応募される方も多いので例年この時期に設定しています。

佐藤

国際公務員の場合は、院卒だったり博士号取得などの条件がありますが、そういった条件等もないのでしょうか。

佐久間

国連の場合は、あるポストに対して応募するため、そのポストに対する専門性が必要となり院卒が条件になったりします。ですが、JICAでは新卒の場合、基本的に専門性は求めていません。

佐藤

なるほど。JICAの場合は専門性は重視されないのですね。日頃、留学生の相談に接していると国際関連のお仕事を希望される方は、開発学や国際関係学などを学ばれている方が多いのですが、実際の応募者はいかがですか?何か傾向はありますか?

佐久間

JICAも国際協力という仕事の性格上、そういう勉強をされた方やNGOでボランティアをやっていらした方などは、確かに多いと思います。けれども先ほどの専門性と同様に、私たちとしてはそうした経験や知識を採用の条件としているわけではありません。

佐藤

応募者には大学院卒の方も多いですか?

佐久間

大学院卒の枠を設けているわけではないのですが、院卒の人は多いと思います。昨年実績でいうと、学部卒20人に対して院卒17人。ちなみに、男女比率も、やや男性が多いですが同じような割合です。うちは全員総合職採用なので、入った後の仕事の内容もまったく同じで、学歴や性別によるバリアはありません。

佐藤

確かに女性もご活躍されている印象がありますね。応募者の英語力に関してはいかがでしょうか?

佐久間

応募される方の中には高い英語力をお持ちの人もたくさんいます。ですが、英語力に関しても特に高い能力を求めているわけではありませんし、英語力があるから有利ということもありません。これは留学生を対象とした夏選考でも同様です。むろん業務では英語力が必要となるため、入構後はそれなりに覚悟を決めて研鑽に励む必要がありますが。

佐藤

では、どういった資質を重視していらっしゃいますか。

佐久間

「JICAの求める人材像」として以下の3つの項目を挙げています。
『どんな状況にもめげずに、意欲的にチャレンジできる人』
『現場感覚を持ちながら、自分の頭で考え行動できる人』
『自ら夢を描き、人を巻き込んで、実現できる人』。
先ほど、新卒採用の場合には専門性や英語力は求めないとお話しましたが、このような人材像に当てはまる人であれば、そういった知識やスキルは、JICAで仕事をしながらでも必ず十分に身に付けられると考えています。3つの中では、最後の「人を巻き込んで、実現できる人」というところが特に大事だと私自身は考えています。一人で何かをやり遂げる力も必要ですが、国際協力というものは一人ではできません。色々な人と協力して作り上げていくものなので、人との関係の中で行動し、成果を出していける人であってほしいということです。

佐藤

それは「推進力」ともいえるかもしれませんね。

佐久間

そうですね。そして「コミュニケーション力」だと思います。私たちの仕事は、時として、価値観や考え方のまったく違う途上国の人たちと一緒に進めていきますが、そういう人たちの思いを汲み取って、共感して、なおかつ自分の意見もきちんと伝えつつ、その中で物事を進めていかなければならない。そういう意味でのコミュニケーション力であって、語学力や話上手といった意味ではありません。

佐藤

誰かを巻き込むことは難しいことですが、仕事をしていく上ではとても大事なことですね。それから、佐久間さんが今おっしゃった『コミュニケーション力』の定義についてですが、すごくわかります。私もキャリアセミナーなどで噛み砕いて説明し、改めて具体的に参加者に考えていただく時間を割いています。

中途採用の場合でも
専門性よりマネジメント力重視


佐藤 中途採用は行っていらっしゃいますか?

佐久間

不定期ですが、例年10名くらい採用しています。今年は、新卒の夏採用が終わった8月から選考を行います。中途の場合は新卒と違って英語もある程度できるなど即戦力性を求めます。ただ、私たちの仕事の場合、経理等の仕事を除けば、これまでの業務経験が直接活かせるということはまずありませんので、やはり人を巻き込む能力やコミュニケーション力、マネジメント能力などが重要なポイントになります。

佐藤

中途採用の場合は、新卒と違い建設や医療などのスペシャリティが求められるイメージがありますがいかがですか?

佐久間

私たちの仕事でも専門性を求めることはあるのですが、基本的に約3年ごとに人事異動するジョブ・ローテーションが組まれていて、例えば、一度教育分野を担当したからといってずっと教育の仕事だけをし続けるということはありません。私もインドネシアでは教育分野の専門家として業務に携わりましたが、今はこうして人事の仕事をしています。管理職になればマネジメントが重視されますし。仕事をしていく上で軸となる専門性は重要ですが、専門性だけを求めているわけではありません。それよりも、マネジメント+専門性くらいに考えていただいたほうがいいです。その辺は国連とは違うところだと思います。

佐藤

むしろ専門性にこだわりすぎず、どんどん新しいことに挑戦して、楽しめる人のほうがいいということですね。

佐久間

そうですね。海外駐在時には、場合によっては農業も保健も教育もといったように複数の分野を担当することになります。そうなると、一つのことだけに長けているよりも、マネジメント能力のほうが重要になりますね。
JICAの仕事は「国際協力のプロデューサー」。自分一人でできるものではなく、多くの人を巻き込む能力が不可欠です。佐久間潤さん/JICA 人事部人事グループ 人材開発チーム チーム長 若いうちからプロジェクトを担当する
徹底した現場主義


佐藤 様々な国際協力の形がある中で、JICAはどのような位置づけで、どのように国際協力という仕事を進めているのでしょうか?

佐久間

JICAは、日本政府が実施する途上国支援(ODA)の中の、技術協力の実施機関です。技術協力とは簡単にいうと、途上国の人たちが自国のさまざまな開発課題を自ら解決できるようになることを目指して行う人材育成や制度構築を目的とした支援事業のことです。青年海外協力隊や専門家の派遣、研修員の受け入れといった形での協力がその典型です。ちなみに、ODAにはこの他に、有償資金協力(円借款)と無償資金協力があり、前者は国際協力銀行が、後者は外務省が所管しています。そして、2008年10月には、国際協力銀行の円借款部門がJICAに統合し、また無償資金協力の一部もJICAに移管される予定で、これによってJICAは日本のODAをトータルに実施する援助機関へとスケールアップすることになります。

佐藤

来年の統合により、一層JICAの『実施力』が期待できますね。そうした位置づけ、役割の中で、今度はJICA職員の方たちのお仕事について改めて教えていただけますか?HPでも様々な仕事をされていらっしゃる方の記事が紹介されていますね。

佐久間

JICA職員の仕事を説明するときに、私たちは、学生の皆さんに対しては、「国際協力のプロデューサー」ですと説明しています。テレビ番組の例で考えると、プロデューサーと呼ばれる人はまず、どういった視聴者を対象にどんな番組を作るか企画を立て、取材を進めた上で、スケジュールやキャスティングを決めますね。それと同じように、私たちが国際協力を行う際も、まず対象国に対してどういった援助が必要なのかを調査します。それが農業、教育、保健のうち教育だとするならば、では誰をターゲットとするのか。先生を支援するのか、直接子どもたちを支援するのかといったことを決めなければなりません。さらに予算を決め、どういう専門家に来てもらうかをキャスティングします。それでプロジェクトがスタートしますが、それで終わりではなく、スタートしたプロジェクトのモニタリングもする。そのように考えると、私たちの仕事を「国際協力のプロデューサー」と説明する理由が分かってもらえると思います。

佐藤

国際協力のプロデューサーというのはわかりやすい例えですね。プロジェクトのマネジメントができるレベルになるには、どれくらい年数がかかるのでしょうか。

佐久間

マネージャーまで何年とはいえませんが、入構して1年間の研修を終えてからは、本部などでどんどんプロジェクトを任されます。2003年に緒方が理事長に就任して以来、JICA改革として進めているのが「現場主義」です。何でも本部で決めてしまうのではなく、海外事務所のスタッフが自ら決断して行動できるような組織作りを進めているのです。このため、入構後、早い段階で本部でのプロジェクトを経験して、その後は、海外に駐在し今度は現場でプロジェクトのマネジメントを経験することになります。

佐藤

1年目での研修とはどのようなものですか?

佐久間

入ってから3ヵ月は、ビジネスマナーから始まって、JICAの仕事に関して一通り研修を受けます。その後は、JICAの海外事務所に8ヵ月ほど赴任します。これは「海外OJT」と呼ばれる制度で、海外事務所のほか、相手国政府の人たちや、日本の専門家や協力隊員の人たちの中に入り込んでさまざまな活動を研修生として体験します。JICAの支援対象である途上国の人々の価値観・考え方や実際の生活状況、さらには現地で働く日本人関係者の活動の様子やその活動を支える思いなどは日本にいては十分に理解することができません。現地で生活して、実態を見ることで、「国際協力の原体験」を職員にもたせることが、この8ヵ月間の目的です。この時期の思いや経験が、その後の仕事をしていく上での核になるはずです。
キャリアセミナーでもコミュニケーション力について改めて考える時間を割いています。洞察力や共感力、そして自分の意見を伝えながら推進していく力。仕事をする上でもっとも重要なスキルですね。佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー
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プロフィール
さくまじゅん/大学(法学部)卒業後、1989年に新卒でJICA(独立行政法人 国際協力機構)に入構。92年、企画部に配属されJICA初の本格的な基礎教育支援事業の企画立案に関わったことから教育分野の協力に関心を持ち、94年から構内留学制度を利用して米スタンフォード大学教育大学院へ留学し、修士号を取得。98年から、初中等教育の専門家としてインドネシアに3年間駐在。06年から人事部人事グループ人材開発チームのチーム長として、新卒および中途の採用・職員研修などに携わる。



















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JICAの採用スケジュールは一般企業と同様。『春選考』の他に例年『夏選考』でも若干名採用している。夏選考のスケジュールは留学生にとってチャンス。採用情報や仕事情報はHPに詳しく掲載されている。



















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特に新卒の場合、高い専門性より「人を巻き込んで実現できる人」・・・そんな資質を重視しています。



















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JICAでは『現場主義』『実施力』などのキーワードを掲げ、より強い組織づくりを進めています。海外事務所でスタッフ自ら決断して行動できるよう、入構後、1年目の研修で8ヵ月の海外OJTで現場を体験していただきます。



















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佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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