キャリアの達人に聞く29
 
キャリアカウンセラー対談 第29回
世界で活躍できるスペシャリストの採用・育成方法とは?
ブランド戦略を世界でいち早く取り入れた企業として知られるP&G。徹底した企業方針と採用理念を基に、新卒採用と社内育成に大きな力を注いでいるという。従業員数約4200名、26ヵ国の国籍からなる多様な社員環境にあって、年間の離職率が約4%という驚異の数字を成し得た、職種別採用、内部昇進制などP&Gならではの制度について、人事本部の籾山直威さんと広報渉外本部の長谷太介さんにお話を伺った。
スペシャリストになりうる人材を
職種別に採用するシステム


佐藤 御社の企業冊子を拝見したのですが、これは採用目的のものではないですよね?一般の企業冊子で、ここまで採用のことを書いている企業は少ないと思うのですが。

籾山

そうですね。我々は企業というものを知ってもらう上で、採用は大きな柱であると考えています。P&G社員のすべての活動の原点になるのがPVP(Purpose Value Principleの頭文字。企業方針)です。そのPVPの価値観の中で、『私たちは、世界中で最も優秀な人材を引きつけ、採用します』『私たちは、組織の構築を内部からの昇進によって行い、個々人の業績のみに基づき社員を昇進させ、報奨します』『私たちは、社員が会社にとって最も重要な資産であるという信念に基づき、行動します』という採用理念、内部昇進制、人材育成について謳っているんです。

佐藤

なるほど。企業価値を高める大きな要素として採用・人材育成というものがあるのですね。外資系企業でありながら、新卒採用を積極的に行ってらっしゃる理由はこのPVPによるものなんですね。

籾山

はい。弊社はリーダー職を外部から採用するといったヘッドハンティングのようなものは行っていません。すべての社員がエントリーポジションから昇進するという内部昇進制を敷いています。事実、現在のリーダーのほとんどすべてがエントリーレベルで入社し、徐々に昇進した者たちです。つまり次のCEO(最高責任者)も、すでに社内にいるということになりますね。この内部昇進制を推進するためには、最良の人材を雇うこと、OJTを軸とした社員トレーニングを行うことが不可欠になってくるのです。

佐藤

御社が求める“最良の人材”とは具体的にはどういった人材のことなんでしょうか。

籾山

我々が求めるのは、ジェネラリストではなく、プロフェッショナルなスペシャリストになりうる人材です。それを実現するための方法として職種別採用を行っています。

佐藤

採用ページを拝見しましたが、新卒でも職種別採用を行っていらっしゃるんですね。新卒で募集する職種は決まっているのですか?

籾山

年によって変わりますが今年は、営業統括、コンシューマー・アンド・マーケットナレッジ、ファイナンス(経営管理)、マーケティング、人事、研究開発、生産統括、情報システムの8職種を予定しています。

佐藤

御社では職種別採用によりスペシャリストを育ててらっしゃるのに加え、一人ひとりがブランド、つまり、各商品ごとのマネージメントに加わっているとお聞きしましたが、組織図はどのようになっているのですか?

籾山

弊社では、特殊なマトリックス組織を組んでいます。キャリアの属性としてはマーケティングや営業など職種別に分かれているのですが、所属するチームとしては、ヘアケアや台所用洗剤といったブランド別に分かれています。つまり、それぞれの職種のプロが集まって1つのブランドチームを作ります。ですから、ブランド間の移動はありますが、職種間の移動はせずに、キャリアを積んでいくというのが基本です。ただし、本人の意向により社内公募制を利用したり、上司との相談によって職種を変更することも可能です。

佐藤

なるほど。専門分野に強いプロが終結してブランドを育てて利益を出していくという点では、プロジェクトごとにチームを組むコンサルティングファームに近い印象ですね。このような組織で活躍してく人材に求められる資質は、自律性と協調しながら推進して結果を出していく力といったところでしょうか。

籾山

そうですね。我々の言葉で言えば、オーナーシップとリーダーシップということになります。
P&Gが求めるのはジェネラリストではなく、スペシャリストになりうる人材。

必要なのは英語力ではなく、ビジネスにおけるコミュニケーション力。

籾山直威さん/P&G ヒューマン・リソーシーズ リクルーティング アソシエイト・マネージャー ビジネススクールで
国際ビジネスパーソンの基礎を学ぶ


佐藤 御社では、学生向けのビジネススクールやインターンシップを積極的に行ってらっしゃるとお聞きしたのですが。

籾山

はい。弊社では8月末から9月上旬にかけてサマーイベントとして他社の「サマーインターンシップ」にあたる「サマーイベント」を開講しています。大学3年生と修士課程1年生を対象としたものですが、毎年多数ご応募いただき抽選によって参加者を決めさせていただいております。サマーイベントの中身は、研究職や情報システムなど理系の学生を対象にした「テクニカルカレッジ」と、専攻を問わない「ビジネススクール」の2つがあります。「テクニカルカレッジ」は例年9月初旬に行い、1日完結のスクールです。「ビジネススクール」は勝ち残りの3ステージ制で、8月末から9月末にかけて行っています。この「ビジネススクール」は、「グローバルに活躍できるビジネスパーソンとなるには」といったテーマで、P&Gが考える、『戦略的な思考』『専門性』『リーダーシップ』の3つの項目について、まずは講義で学び、次にグループディスカッションで実戦していただく、という内容で行っています。この「サマーイベント」は学生さんたちにも非常に好評で、先輩が後輩へ参加を勧めるといったことも多々あるようです。

佐藤

御社のインターンシップとは、採用プロセスの一環なのですか?

籾山

そうです。ではエントリーからインターンシップまでの選考プロセスにつてご説明します。1次試験は筆記試験と適正診断検査。2次はグループディスカッション。ここで面接を行う職種もあります。そして最終面接に進むのですが、この最終面接の前か後にインターンシップを行います。弊社の場合、インターンシップは採用選考の最後の段階に行われるもので、お互いによりよく理解するためのものという位置づけです。

長谷

弊社の場合、各部署の人間が直接採用にかかわります。自分の部署の次期リーダー候補の人材を採用するのですから、当然のことです。ですから、採用の選考方法も部署によって違いが出てくるのです。

佐藤

なるほど。御社の人材育成に対する情熱は、採用前からすでに始まっているのですね。御社が常に就職先人気ランクの上位にランキングされている理由がよく分かりました。
英語力とビジネスにおけるコミュニケーションは異なるものです。英語に壁を感じている方にはその点を強くお伝えしたい。

長谷太介 /P&G エクスターナルリレーションズ 広報・渉外 スーパーバイザー グローバルな多様性の中で引き継がれる
P&G社員としての確たるDNA


佐藤 資料を拝見すると、26ヵ国もの国籍の方がいらっしゃるようですね。社内の公用語は英語ですか?

長谷

会議では、日本語がしゃべれない外国人が1人でもいる場合は必ず英語を使用するということになっています。部署にもよりますが、日本人同士でしゃべる場合は日本語を使うこともあります。ただし、メールは日本人同士でも英語で書きます。世界中のP&Gグループの社員と頻繁に連絡を取り合いますから、いつ海外へ転送してもいいように最初から英語で書くんです。

佐藤

実務でそれだけ英語の使用頻度が高いのであれば新卒者に対しても一定の英語力を求めていらっしゃいますか?何か指標のようなものはありますか?

籾山

採用の段階ではTOEIC550点が1つの指標です。ただし、これは英語でビジネスをする上では十分ではありません。そのため、内定してから入社するまでの間に英語力を伸ばすためのトレーニングがあります。更に入社した後も英語のトレーニングがあります。英語で会議をする、プレゼンをするということは弊社の場合日常業務ですから。

佐藤

採用面接が英語で行われることはありますか?

籾山

面接官が外国人の時は英語で行われることがありますが、通訳がつく場合がありますのであまりご心配なさらずに。面接で英語力を試している訳ではありませんので。

長谷

英語力とビジネスにおけるコミュニケーション力は異なるものです。例えば留学経験者で英語がぺらぺら話せるからといって、すなわちコミュニケーション力があるということにはなりません。逆に英語に壁を持っている人には、弊社で求めているのは英語力が全てではないということを強くお伝えしたいです。

籾山

英語が流暢に話せてコミュニケーション力があるのがベストではありますが、重要なのは英語を使ってどうコミュニケーションが取れるのかということですね。

佐藤

そうですね。仕事の進め方をお聞きしていてもそのとおりだと思います。このようにグローバルで多様性に富んだ採用を行っていらっしゃるにも関わらず、御社のDNAを社員一人ひとりに浸透させる、またそのようなDNAを持った人材を採用の際に見極めるための秘訣のようなものはありますか?
籾山
弊社にはP&Gで活躍できる人材の明確な定義というものがあり、それを世界中のP&Gで基準としています。また採用担当者がその基準を満たす人を採用するためのトレーニングも充実しています。

長谷

このような明確な定義による採用を行うことで、学生さんとP&GのDNAとのマッチ率が非常に高く維持できています。社員はさまざまなトレーニングを通して、会社にいる時間を単に自分を育てるためだけの時間として捉えるのではなく、成長して会社に貢献しようという意識を持つようになります。これが、離職率が非常に低い理由のひとつです。違うところへのステップではなく、P&Gでやりたいことが実現できている限りは会社にいよう、ということですね。

佐藤

HPを拝見すると、会社のPVPだけでなく、各職種のユニット(部署)毎にミッションが設定されていて、組織の中で自分たちがどういう役割なのかが明言されていますね。籾山さんがおっしゃっていたオーナーシップとリーダーシップ、それから実践の場での戦略的思考が社員一人ひとりに徹底されていて、それが小さなユニットから企業という大きな組織にフラクタルにまわっていくという御社のシステムに非常に面白みを感じました。
会社のミッションに共感し、そこに属するユニットや自分のミッションを理解する。

個々の社員と組織のベクトルの一致が組織の強さの秘訣ですね。

佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー
--photo--
プロフィール
もみやまなおたけ/P&G ヒューマン・リソーシーズ リクルーティング アソシエイト・マネージャー。1999年大学卒業後、日系保険会社に入社。2002年に退職後、アメリカのサンダーバード国際経営大学院にてインターナショナルマネージメントを学ぶ。03年卒業後帰国。04年に組織人事系コンサルティング会社に入社。06年P&G人事本部入社。約1年半に渡り、リクルーティングに携わる。



















--photo--
プロフィール
はせだいすけ/P&G エクスターナルリレーションズ 広報・渉外 スーパーバイザー。中学3年生でイギリスに単身留学。語学学校を経て、イギリスの中学、高校を卒業。経済学を志すが、イギリスで奨学金のオファーが出た大学が数学専攻が条件だったため帰国。1996年慶応大学経済学部入学。2000年同校卒業、P&G広報渉外本部入社。入社以来約7年間、広報のスペシャリストとして活躍。



















--photo--
社内の公用語は英語。メールの場合は日本人同士のやり取りも英語で書きます。いつ海外に転送してもいいように。



















--photo--
食品から日用品まで身近な顔ぶれが並ぶ。P&Gブランドの中には戦略的に敢えて社名を前面に出さないものも。



















--photo--
佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
次のページへ >
<帰国後の就職も考えよう トップページへ > もっと見る
留学ジャーナルモノになる留学へ。
帰国後の就職も考えようキャリアの達人に聞く29の紹介ページです。
短期留学や語学留学はもちろん、ワーキングホリデー、大学留学、大学院留学まで幅広くご紹介している留学ジャーナルが、皆さんの海外留学への思いをカタチに変えます。海外留学の実現は、留学ジャーナルで!