キャリアの達人に聞く31
 
キャリアカウンセラー対談 第31回
企業の多様化、グローバル化が進む今 留学生に求められるのはリーダーシップ
企業や学校向けの教育サービスを展開する教育ベンチャーのウィル・シード。独自のポリシーに基づく体感型の社員研修プログラムは、現在までに300社以上の導入実績を持ち、取引先には各業界のトップ企業が名を連ねる。参入が難しい学校教育においても、全国約90自治体、630校の小・中・高校・大学、5万人以上に「SEED/いきいきゲーム」といった教育プログラムを実施、注目を集めている。確固たる企業ビジョンの原点は海外体験の中にあるという。その貴重な海外体験を、そして、企業の人材採用事情にも詳しい船橋社長に、これからの留学生に求められることを伺った。
日本人は「社会への視点」を持たなければ。
ビジョンを伝える体感型教育プログラム


佐藤 御社の象徴的な研修プログラムであるSEEDは、会場をひとつの「世界」、いくつかのチームを「国」に見立てて行う国対抗のシミュレーションゲームですね。シミュレーションを通じて世界のしくみを体感するという、とてもユニークな教育プログラムだと思います。

船橋

実際に、現実世界に則した形で進められます。たとえば、最初に紙幣、白い紙、コンパス、定規、はさみなどが入った封筒が渡されるのですが、これはその国の資源や技術、財源となります。現実に条件が違うように、封筒の中身は国ごとに違います。あとは知恵を絞って、売れる製品は何か考えたり、資源がなければ他の国と交渉して交換したり、協調したり、銀行にお金を預けて利息を増やしたり。ファシリテーターである講師や先生は「国連」役を務め、参加者自らがチームで知恵を絞り問題を解決していきます。

佐藤

なるほど、資金力のある国や資源が豊富な国、そうでない国があったり、世界の縮図が見られるわけですね。これはどのような経緯で開発されたのですか?

船橋

当社は、教育を通じて一人ひとりがいきいきと活躍しながら、社会にも興味をもち、そんな人たちであふれた世の中をつくる、というビジョンを掲げています。そのきっかけとなったのが、私が大学時代にフィリピンのNGOを支援する活動に参加したことでした。大富豪の家やスラム街に泊まったり、政治的な理由で教育を施さない閉ざされた村を訪問したり、フィリピンのさまざまな側面を見てきました。悲惨な貧困問題に直面したのですが、それはそれで必ずしも彼らが不幸であるということではなく、彼らの心はとても豊かで幸せそうな面も多かったんです。翻って日本人は経済的には豊かなのに心の豊かさはどうだろうか?と。日本人はもっと社会の構造や国際問題を知り、自分たちの置かれている豊かさを知ることで、他者へ貢献できることを考え始める。社会への視点を持つことを伝えたいと強く思うようになりました。大学を卒業し、商社勤務時代に異業種交流会を主宰し、その思いをどう伝えようかと模索していたとき、「SEED」の原型となるシミュレーションゲームに出会ったのです。

佐藤

それはどのようなシミュレーションゲームだったのでしょうか。

船橋

イギリスのNGOが作った南北問題理解のためのシミュレーションゲームで、みんなで楽しく盛り上がりながら、世界の貧困問題などを知ることができるというものです。最初は貧困問題に関心のなかったような人たちも、いつの間にか飲み会で議論が始まるようになりました。それで、私自身がフィリピンで体感したように、人の意識を変えるには「体感する」ことしかない、と気づいたのです。頭だけではなく体でも感じ取っていくと、自分の置かれた現状や課題を強く自覚でき、それが意識を変え、行動につながっていきます。自分の思いを伝えるには最良のツールだと確信し、このシミュレーションゲームに改良を加え、独自のプログラムとして開発したものが「SEED」です。

佐藤

「SEED」はまさに体感型ですね。体感して意識を変えるという意味では、留学も同じ要素があると思います。留学によって初めて自分を知り、日本という国を客観的に見て、価値観まで変わってしまう、貴重な体験となります。当初、このプログラムを子どもたちを対象としてスタートさせたのはなぜですか?

船橋

私は子どものころに海外生活の経験があり、皆で議論したり、考える力を養う教育を受けました。一方、日本の教育は詰め込み式で柔軟性がありません。「SEED」のような体感型学習は、自分で考え、主体的に動きながら、自由に発想して工夫を凝らすことで意欲が高まります。また、社会の縮図的なシミュレーションを体感することで、知識・知恵を使うイメージが沸き、その後の知識習得の意識も高まります。それが人や社会に対して積極的に関わろうとする姿勢を育むと考えています。起業前は異業種交流会を通じて、社会との関わりを持つことの大切さを理解してもらう活動をしていましたが、そういった考えをより理解してもらうには、そもそも社会人より学校教育を通じて子どもたちに対して伝えられないだろうかと思ったのです。

佐藤

「教育を通じて社会を変えたい」、という御社の企業理念の原点ですね。御社は学校向けの事業のほかに、企業研修も行っていらっしゃいますね?

船橋

はい、『小・中・高校・大学生向けの教育プログラム』と『企業の新人・若手向けの社員研修プログラム』の二本柱で教育事業を展開しています。最初の1、2年SEEDのみが主力商品でしたが、現在は企業向けの研修プログラムは、働く意義、職場での役割、仕事の進め方、チームワーク、コミュニケーションなど、社会や企業で求められる価値観を養うといった体感型プログラムが30ほどあります。

佐藤

研修プログラムはどのように開発されているのでしょうか。やはり、教育の専門家が手がけられるのですか?

船橋

社内にベテランの開発担当の教育専門家がおり、一定の理論、法則によって開発していきますが、プラスして現場感あるスタッフの企画力を重視しています。開発で重要なことは、専門性だけではなく、時代に敏感であることと現場感。そして研修を受ける世代の傾向を把握していることだと考えています。昨今は携帯電話やインターネット、メールやSNSなどの急速な普及によって価値観やコミュニケーション方法が変化し、世代の特徴も1年ごとに変わってしまいます。企業の人事担当者が研修を受ける世代の傾向を把握するのはとても難しい状況です。しかし、当社は学校教育事業を通じて、教育の現場で多くの学生に接し、彼らを子ども時代から熟知しています。そこで培ったノウハウやリアルな情報を活かして、研修プログラムを提供できることが当社の特徴であり、多くの企業から評価される理由と自負しています。

佐藤

専門的な知識やスキルだけではなく、現場でつかんだ確かな情報やご自分の感覚を大切にしていらっしゃるのですね。御社で働きたい人には、特に教育を専門的に学んでいなくても広くチャンスがあるということになりますね。
頭と体で感じ取れば、自分が置かれた現状や 課題を強く自覚でき、意識が変わり、行動につながる。 それが社会への視点を育むと思っています。

船橋力さん/株式会社ウィル・シード代表取締役社長 現地採用の増加や10月入社など
増えるフレキシブルな採用制度


佐藤 資料を拝見させていただきますと、取引先は海外に拠点を持つ国際的な企業が多いですね。ソニーやNEC、伊藤忠商事などグローバル企業が多く名を連ねています。

船橋

当社が掲げるビジョンは研修プログラムの開発ポリシーでもあるため、お取り引きいただけるということは、私どもの考えに感覚的にかもしれないですが共感してくださっていると考えています。それが結果的に多様性のあるグローバル企業ということになるのではないでしょうか。

佐藤

そのように、共感してくださる企業は増えていきそうですか?

船橋

企業のグローバル化、多様化は高まっていると確信しています。最近はグローバルコミュニケーションを身につける研修をしたいという企業が増えています。また、駐在員や現地の外国人社員向けの研修ニーズもあり、現地スタッフの日本人比率も増加傾向にあります。日本企業が現地で採用する場合、外国人よりも日本の社風が理解できる日本人を採用したいという事情があるのだと思います。これは現地就職を希望する留学生にとってはチャンスだと思いますよ。

佐藤

それはいいニュースですね。留学生の就職で苦労するのは活動スケジュールですが、日本国内でも、最近では売り手市場を反映し、大手の人材紹介企業が留学生に特化して紹介サービスをスタートしたりと変化を感じます。さまざまな企業への研修プログラムの提供を通じて、留学生採用について見えてくることはありますか?

船橋

10月入社を実施したり、卒業後に1年間猶予を与えて翌年入社を認める企業など、企業の多様化とともに非常にフレキシブルな採用をする企業が増えていると思います。これは留学生にとっては大きいメリットですね。

佐藤

そうした動きの中で企業はどのような人材が欲しいと思っているのでしょうか。留学生に求められていることはどんなことだと思いますか?

船橋

一般的に企業が求めているのは、自立型人材。つまり、自ら主体的に考え、行動できる人材です。中でも、いま切実に求められているのが主体的に動け、周囲に影響を及ぼせること、つまり『セルフエンジン』と『リーダーシップ』です。採用担当者からよく聞くのは、最近の学生は競争意識が薄いということです。最近の若い人たちはSNSなどに見られるように、自分と近い人や好きな人同士とばかりコミュニケーションをとっています。そのため競争することもなく、リーダーシップをとった経験もないのです。一方、海外生活でもまれた留学生は主体性が身についていると期待されます。その点が評価されやすいのではないでしょうか。

佐藤

海外に行けば必然的に自分とは違う人とコミュニケーションをとることになりますからね。授業ではグループで課題を進めたり、日常的にディスカッションをしたり、主体性が培われるチャンスは多いと思います。御社としてはどのような人材を求められますか?

船橋

さきほどの内容に加え、私の持論として、これからは自分でビジネスを作れる人。それから品格を持っていること。これが大切です。ここでいう品格とは、自分のことだけではなく、世の中を変えたいとか、社会に対する意識が持てること。自分と社会のつながりをきちんとわかる人ですね。

佐藤

それは企業理念にもつながっていますね。周囲の環境や人間関係にも目を向けることのできる社会への視点を育てたい。そういう思いを基盤に事業を展開していらっしゃるわけですね。すばらしいビジョンがよく伝わってきました。
※「SEED」とはウィル・シードが提供するビジネスシュミレーションゲームの名称
意味は以下のふたつ

Self Evaluation of your Effort and Discovery
(自身の努力と発見(気づき)を自己評価(診断)する)
Seek Entire Effect in Dimension
(様々な視点で全体の影響を探求する)
体感して意識を変えるという意味では留学も同じ。 留学によって自分を知り、日本という国を客観的に見て 価値観まで変わる貴重な経験になります。
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プロフィール
ふなばしちから/株式会社ウィル・シード代表取締役社長。世界経済フォーラムNew Asian Leadersメンバー。1970年横浜生まれ。父親の仕事の関係で73〜77年の幼少期をアルゼンチン、86〜89年の高校時代をブラジルで過ごす。インターナショナルスクールにおいて日本人初の生徒会長に就任。94年上智大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。インフラプロジェクト部にてジャカルタ地下鉄推進プロジェクトなどを手がける。96年異業種交流会「LPC(Love and Peace of Cake)」を設立、各種イベントや勉強会を企画・運営。2000年同社を退社、株式会社ウィル・シードを設立。03年早稲田大学大学院MBA非常勤講師、ダボス会議(世界経済フォーラム)のニューアジアンリーダー、内閣官房構造改革特区評価委員に選出など、教育を軸に活動の幅は多岐に渡る。



















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現在『小・中・高校・大学生向け教育プログラム』『企業の新人・若手向け社員研修向けプログラム』の二本柱で教育事業を展開。いずれも体感型のプログラム。



















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子供たちはゲームを通して楽しみながら世界の仕組みを理解していく。



















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駐在員や現地の外国人社員向け研修のニーズも増え、企業の多様化、グローバル化は高まっていると確信しています。



















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佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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