キャリアの達人に聞く32
 
キャリアカウンセラー対談 第32回
海外体験で得た世界共通の普遍性。どこへ行っても生きていく力になる
「教育を通じて社会への視点の大切さを伝えたい」。このビジョンを成しえるため、2000年に6年間勤務した伊藤忠商事を退社、ウィル・シードを立ち上げた船橋社長。父親の仕事の関係で3歳から5歳までをアルゼンチン、高校時代をブラジルで過ごし、大学卒業後に就職した伊藤忠商事でもインドネシアに駐在するなど、海外体験豊富な国際人でもある。対談の2回目は、自身に大きな衝撃を与えたという高校時代のユニークなエピソード、商社時代に体験した新たな世界の壁、その中から獲得したもの・・・。海外体験の数々とその意義を伺うとともに、留学中にやるべきことについても伺った。
「リスペクト・アンド・アクセプト」
すべての基本はこの言葉に集約されている


佐藤 船橋社長は、「リスペクト・アンド・アクセプト」という言葉を大事にされていますね。「リスペクトと」は尊重、「アクセプト」は受け入れるという意味ですが、その原点は何でしょうか?

船橋

私は高校時代をブラジルで過ごしているのですが、入学当時は言葉が分からなくてノイローゼになりかけたんです。しかし、スポーツが得意で野球部に入ったら、学校でヒーローになってしまった。言葉や勉強ができなくても、何かひとつできれば認めてもらえるんだと実感しましたね。他人を尊重し、受け入れる。そんな文化が海外にはあるのだと。そしてまた、自分のことを尊重し、受け入れれば自信が生まれます。そうすると、嫌いな人や価値観が合わない人も、きちんとリスペクト、アクセプトすることができる。物事すべての基本はこの言葉に集約されていると思っています。

佐藤

高校生というその年齢で、自信を失くしたときにそのことに気付けたのは大きいですね。相手を尊重して受け入れ、自分自身も尊重して受け入れる。文化も習慣も価値観も違う人たちの中で、コミュニケーションをとっていくときには更に大切かもしれません。

船橋

そうですね。私の場合は学校がインターナショナルスクールだったのでブラジル人もアメリカ人も韓国人もいて、周りは独自性の強い人ばかりでした。たとえば、日本人の多くは宗教を持っていませんが、私は家がカトリック教徒で宗教を持っています。ブラジル人やアメリカ人は宗教のあるなしで衝突してしまうのですが、私は宗教を持たない人、持つ人双方の気持ちが理解できた。そんな中で気づいたのは、日本人は相手を攻撃することなく、どちらもありと思える調和が得意な人種なんだと。これが日本人として世界であるべき姿ではないかと思いました。

佐藤

インターナショナルスクール初の日本人生徒会長も務めていらっしゃいますから、押しの強い人が多い中、その精神でうまくまとめていらしたのだろうと推測します。船橋社長はほかにも伊藤忠商事に勤務時代など、豊富な海外体験をお持ちですが、そのときはいかがでしたか?

船橋

商社勤務時代は、インドネシアのジャカルタに駐在していました。ジャカルタは東京と同じ1000万人都市なのに交通機関がなく、そこに地下鉄を通そうという国家的プロジェクトを手がけました。インドネシアと、日本やオーストラリア政府をはじめ、日本やヨーロッパの商社、大手メーカー、ゼネコンなどが参加し、私はそれをまとめる窓口をやっていました。

佐藤

高校時代にご経験された、生徒会長として、日本人としての役割と同じですね。それだけの人たちをまとめるとなるとかなり難しいでしょうし、ご苦労もあったのではないですか?

船橋

そうですね。しかし、もっと難しかったのは、実は現地のインドネシア人とのコミュニケーションでした。英語で「コンテキスト」というのは、日本語でいうと、ものごとの背景や文脈、「あうんの呼吸」のような意味ですが、インドネシア人は世界の中でももっともコンテキストのレベルが高い民族なんです。他の国の人間からは現地の人たちが何を考えているかまったくわからない。それで論理的に詰めていったのですが、それはアメリカ人が日本人にやるのとまったく同じものでした。

佐藤

アメリカ人は論理的な民族ですから、何も言わない日本人を何を考えているのかわからないと言って、論理的に詰めようとします。それと同じということですね。

船橋

アメリカ人がなぜディベート好きなのかというと、他民族国家でみんな違うから、論理的という軸で話さないと通じないからです。日本人は単一民族だから、あうんの呼吸で話さなくてもわかる。コンテキストは国や社会、地域ごとに違います。なんでも話す文化があれば、話し合わず察する文化というのもあるのです。これは失敗体験でした。知っていれば、接し方も違ったと思います。

佐藤

なるほど、なぜグローバル社会で論理的思考が必要かというと、そういうことなのですね。インドネシア人とのコミュニケーションの壁を乗り越えたきっかけは何だったのですか?

船橋

結局は、大学時代のNGOの活動体験やもともとカトリック教徒で「隣人を愛する」という精神が根づいていたこともあり、常に彼らの味方になっていたことが、うまくいった要因ではないかと思います。

佐藤

なるほど。相手を尊重し受け入れたのですね。商社時代の経験でぜひお伺いしたかったのですが、船橋社長がご経験されたようなODAに関わる仕事をするために商社に就職したいという留学経験者は多いのですが、多くの部門がある総合商社で希望通りの配属は叶うものなのですか?

船橋

私の場合はインフラプロジェクト部に配属されたのですが、もし、そういった仕事を希望しているのなら、事業ごとのカンパニー採用をしているところもあるので、情報収集してみるといいと思いますよ。
どちらもありと思える日本人は調和が得意。 これが日本人として世界であるべき姿ではないか 独自性の強い人ばかりのブラジルで気づきました 船橋力さん/株式会社ウィル・シード代表取締役社長 多くの人や異文化に接し、受け止める。
日本人のメンタリティを知ってから留学へ


佐藤 船橋社長は6年間商社に勤務された後、起業されるわけですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

船橋

商社に勤務する傍ら、異業種交流会を主宰して、国際問題や社会貢献など、社会と関わることの大切さを理解してもらう目的で、毎月イベントやゲームを企画・運営していました。口コミで広がり、3年間で3000人ものネットワークになったのですが、そのうち、そもそも社会人に伝えるより、学校教育で伝えられないだろうかと思うようになりました。起業にはなかなか踏み切れなかったのですが、ちょうどニューヨーク転勤の話が来て、今がいいタイミングだと思い決断しました。

佐藤

実にさまざまな海外体験をされていて、「リスペクト・アンド・アクセプト」もそうですが、ご自身が大変な思いやご苦労をされたからこそ、身についたものですよね。留学もそうなのですが、ときには打ちのめされる体験も必要だと思います。そうして獲得したものは何物にも替えがたいし、海外体験は仕事や学問のみならず、大きな財産となりますね。

船橋

その通りだと思います。私は海外生活する中で、日本の常識は世界の常識ではないことを知りました。一方、国ごとに常識やルールは違っても、共通する普遍的なものがあることも知りました。この普遍性は当社の教育プログラムを開発するうえでのベースとなっています。それから、物事を決断するときの『判断軸』も、海外体験で獲得したもののひとつです。

佐藤

そのような財産を手に入れるために、留学で意識しておいた方がいいことは何でしょう?さまざまな海外体験を持つ船橋社長からメッセージをいただけますか?

船橋

留学中は、とにかく多くの人や異文化に接し、たくさんの違う体験をすることが大切です。迷わずに何でも一旦受け止め、やってみる。それが後々、日本に帰って来ても、世界のどこへ行っても通じる、自分の土台になります。また、これは違うな、合っているな、ということが直感的にわかる引き出しになります。そういうことを感覚的にたくさん持っていると、生きていく力になるんです。英語力や専門知識以外に、ぜひ持っていたいものです。それから、自分の反省でもあるのですが、留学前に日本をよく知っておくことです。歌舞伎などの文化を知っていることも大切ですが、特に日本人のメンタリティ。知識レベルでもいいから知っていれば、何かあったときに自分の偏りが分かります。相手との間に生じる違いを背景から理解し検証することで、すりあわせもしやすくストレスにならないと思いますよ。

佐藤

多くの体験を通して感じること。そして知ることで自分の世界や視野を拡げていくこと。それが直感の引き出しを増やし、生きていく力を鍛えていくポイントですね。このページの読者の方にも、留学という体験・体感の機会を通して『自分が大切に思う価値観や意志(Will)』の『種(Seed)』を見つけて育てていって欲しいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
大変な思いや苦労をしたからこそ、身についたもの そうして獲得したものは何物にも替えがたいのです。 海外体験は大きな財産となります

佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー
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プロフィール
ふなばしちから/株式会社ウィル・シード代表取締役社長。世界経済フォーラムNew Asian Leadersメンバー。1970年横浜生まれ。父親の仕事の関係で73〜77年の幼少期をアルゼンチン、86〜89年の高校時代をブラジルで過ごす。インターナショナルスクールにおいて日本人初の生徒会長に就任。94年上智大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。インフラプロジェクト部にてジャカルタ地下鉄推進プロジェクトなどを手がける。96年異業種交流会「LPC(Love and Peace of Cake)」を設立、各種イベントや勉強会を企画・運営。2000年同社を退社、株式会社ウィル・シードを設立。03年早稲田大学大学院MBA非常勤講師、ダボス会議(世界経済フォーラム)のニューアジアンリーダー、内閣官房構造改革特区評価委員に選出など、教育を軸に活動の幅は多岐に渡る。











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ウィル・シード社のSEEDという体感型プログラム。会場をひとつの「世界」、いくつかのチームを「国」と見立ててゲームを通じて世界の仕組みを理解していく。










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子供たちはゲームを通じて、「違い」や「協力」を学んでいく。










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留学中はたくさんの人や異文化に触れ、迷わず一旦受け止めること。それらの経験が後々世界のどこに行っても通じる自分の土台になります。










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佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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