キャリアの達人に聞く41
 
キャリアカウンセラー対談 第41回
働くことと子育てを両立させるための「海外留学」という選択
2歳の息子さんを連れて、アメリカのスタンフォード大学ビジネススクールに留学をした石黒不二代さん。石黒さんを子連れ留学に駆り立てたものは何だったのか。留学準備から留学で得たことなどをうかがった。

両立できる楽な環境を探して見つけた答えが「留学」

佐藤 34歳のときにお子様を連れて留学されたそうですが、留学を決めるときに迷いはなかったのでしょうか?

石黒

よくそう聞かれるのですが、まったく迷いはありませんでした。むしろ、「迷うようなリスクがあるのでしょうか?」と聞きたいくらい。子育てしながらの忙しさという点では、日本にいても同じですし、むしろ当時の日本では、仕事をして子育てをしてということが、ほとんど不可能な環境だと思ったんです。

佐藤

ご著書の中でも書かれていますが、日本では保育所が見つからなかったり、手伝ってくださっていたお母様が病気で亡くなられたりと、仕事と育児の両立に非常に苦労されたようですね。

石黒

そうなんです。だから、子どもを連れての留学は、私にとって楽になるための選択だったんです。日本で両立できないなら、両立できる環境を探そうと思って「アメリカ」でしたし、2年間、楽に子育てができて勉強ができる。じゃあ、楽になるために頑張ろう!という感じでした。

佐藤

そうだったんですね。普通に考えると、子どもを育てるだけでも大変なことなのに、知らない土地で、まして海外でとなると、いろいろ不安がありそうに思えました。

石黒

今思えば、他に気にすべきことがあったのかも知れないと思うのですが、当時は何も気にならなかったんです。

佐藤

気にすべきだったと思うのは、どんなことですか?

石黒

実は私、今もそうなのですが、英語は決して得意ではないんです。海外営業をしたり外資系企業で働いたりしていましたが、そこで使う英語は限られているし、入学に向けて一生懸命勉強しましたが、やはりスタンフォードに合格した人たちは帰国子女などみんな英語がペラペラで、全然レベルが違う。私が一番劣等生。何しろ最初の授業で、「先生、英語しゃべってる!」と初めて実感したくらいですから(笑)。

佐藤

ビジネススクールに留学すると決めてからの2年間は、「人生の中で最も勉強に時間を費やした」とおっしゃっていましたね。

石黒

朝は5時に起きて、過去に出された問題を解き、電車の中でも歩きながらでも、すごい集中力で問題集を読み漁りました。共通テストはそれほど難しくはないんです。数学は中学校から高校低学年のレベル。ただ、英語を母国語とする人に英語で差をつけられるので、数学では満点が必要。しかも英語で出題される数学の問題を完璧に解くというのは、やってみると結構大変でした。

佐藤

そこまでされて入学しても、やはり授業は大変だったんですね。

石黒

TOEFLなど最初は全然ダメだったのが猛勉強をしてやっと点数が伸びて、これで大丈夫だと思ってやってきたのに、授業では先生が何を言っているのかサッパリわからない。「こんなふうに授業が進んでいくんだ・・・」と、本当に失敗したと思いました(笑)。MBAの場合は、単に講義を聞くという授業はほとんどなく、必ず自分の意見を求められ、自分から発言しないと点数にならない。しかし、私は1時間、「この人、何を言っているんだろう?」と思っている(笑)。そういうことがよくわからないまま行ってしまう向こう見ずさがあったかなと思いますね。

佐藤

なるほど。でも、そういう点では、苦労しながらも現地でもまれて成長していくのが、結局近道だったりもしますね。

石黒

ビジネススクールの起業論などでも、用意周到に準備しなくてはいけない反面、「Just do it!まずやってみよう!」ということを教わります。そう思うと、性格的に適していたのかもしれません(笑)。
「楽になるための選択がアメリカへの留学。ご自身にとって、何が大切なことなのか、何を一番したいのかが、よくわかっていたからこその選択だったんですね」佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー 授業や学生生活を通じて、既成概念がさらに取り払われる

佐藤 スタンフォード大学は、非常にリベラルで自由な独特のカルチャーがあったようですね。その成り立ちも、他のアメリカの大学とは異なり、既成概念を打ち破ってシリコンバレーを形成する中心になっています。そんな大学で学んだことが、それまでも「普通の人と違うレールの上を走っている」と周囲の方から指摘されることがあったという石黒さんにとって、さらに既成概念が崩れたというような体験があれば教えてください。

石黒

やはり、まるで違った人種やマインドを持った人々との出会いですね。例えば、アメリカンインディアンの学生がいて、将来やりたいことを聞くと、インディアン経済を復興させたいからラスベガスでカジノマネジメントをすると。日本で暮らしていた私には想像もできないような、長い迫害の歴史や非常に厳しい経済状況がその背景にある。私の目標なんて甘いものだと思い知りました。他にも、ゲイやレズビアンの人たちが、それだけで偏見の目を持たれることのないこの大学に来て本当によかったと涙している。そういうそれまでに出会ったことのない人たちの考え方や歴史、生き方など、いろいろなことを知れた。既成概念が打ち破られるというか、もともとあまりなかった「こういうふうに生きていかなくてはいけない」というものがさらにはじけて、生き方からも開放されたという感じですね。

佐藤

授業中も、いわゆる教授と生徒といった関係は希薄で、かなり自由な雰囲気のようですね。

石黒

特にスタンフォードは特殊だったようですが、教授と生徒がとても対等な関係で、生徒は生徒として非常に尊重されていたし、特に女性はとても尊重されていて、それはもう恐いくらい。何しろ、MBAに来る女性は、ミリタリー風に強いですからね(笑)。例えば授業の中で、男子学生の発言にすっと手を挙げて、「今の彼の発言は差別だ。訂正してほしい」というようなことを言って、一気に雰囲気がピリピリ〜となるんです。しかも、「先生は、今の発言を止めませんでしたよね」と、さらに教授に矛先が向かう。それで、「今日の授業はここで中断し、この問題について話し合おう」となってしまうんです。でも、私は全然それがわからなくて、授業が終わってから「あの発言のどこが差別だったの?」なんて(笑)。

佐藤

確かに、日本ではなかなか考えられないことですね。

石黒

他にも、学生に一番人気があった授業に「インター・パーソナル・ダイナミックス」というのがあって、人と人との関係で起こっていることに注目し、相容れない人との関係をいかに乗り越えていくかというような授業があったんです。ひたすら自分の心の中のことを話したり、相手のちょっとしたしぐさにも注目して「今、あなたはそこに手をやったけど、それは何か他のことを考えているの?」などと問うていく。「もう、ほっといて」という感じで、私はこの授業、一番嫌いだったんですが(笑)。でも、そうやって自分や過去のことをどんどん話していかなくてはいけなくなるので、そんな授業を通じても、お互いのことをより深く知るようになりますよね。

佐藤

行動心理学を応用した自己啓発セミナーによくあるような授業ですね。

石黒

そうですね。さすがにアメリカの中でも珍しい授業のようでしたが。

佐藤

その他にも、事業に失敗した経験のある人を招いて「失敗から学ぶ」というセミナーがあったり、何度失敗してもそこから学べばいいというとてもポジティブな発想が、スタンフォードやその周辺のシリコンバレーという街自体にあふれていたようですね。次回は、そんな雰囲気の中から、石黒さんご自身が起業して今に至る経緯などについてもお話しいただければと思います。
「それまで出会ったことのない人たちとも出会い、もともとあまりなかった『こういうふうに生きなくてはいけない』という既成概念からさらに開放されました」石黒不二代/ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役社長兼CEO
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プロフィール
いしぐろ ふじよ/大学卒業後1年間のアルバイトを経て、ブラザー工業株式会社に入社。海外営業を担当する。その後、スワロフスキー・ジャパンでの新規事業担当マネージャーなどを経て、34歳のとき2歳の息子を連れスタンフォード大学ビジネススクールに留学。卒業後、米国シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。1999年、マーケティングやコミュニケーションに課題を持つ企業に対してPCやモバイルのウェブを中核に据えた総合的なマーケティング支援を行うネットイヤーグループ株式会社に参画。2000年から現職。


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著書『言われた仕事はやるな!』。石黒社長の幼少時代から、スタンフォードへのMBA留学、シリコンバレーでの起業、現在のネットイヤーでの経営の様子など、体験談をベースに読みやすく書かれている。“キャリアの棚卸”や“言われたことをやらないためのルール”など実践的な問いかけもあり、留学や転職といった転機に迷う人だけでなく、“自分の人生を納得して生きる”ためのヒントが満載の一冊。


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子どもを連れての留学は、私にとって楽になる選択だったんです。当時の日本では仕事をしながら子育てをするのはほとんど不可能な環境でした。


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シリコンバレーには失敗を許す文化があります。起業して、たとえ失敗してもそれは学習。それよりも、トライしたこと、チャレンジしたことを称える文化があるんです。


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佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
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