キャリアの達人に聞く43
 
キャリアカウンセラー対談 第43回
留学をきっかけに、国際公務員の道へ進む
現在、国際通貨基金(IMF)の人事オフィサーとしてワシントンD.C.で働く富永こずえさん。結婚を機に一度は専業主婦として過ごしていたが、その後派遣社員として働く中で改めてキャリア意識が芽生え30代で大学院への留学を果たす。留学当初は、国際公務員を目指していたわけではなかった富永さんがいかにして現在のキャリアにたどり着いたのかそのプロセスをうかがった。

留学中の授業の課題を通じて、国際機関で働くことに興味を持つ

佐藤 私が富永さんと初めてお会いしたのは、富永さんが留学される前、トレンドマイクロ株式会社の人事をされていた頃でしたね。お互い、キャリアカウンセラーとして、ある大学の就職支援のプロジェクトをお手伝いしたのがきっかけでした。それからジョージワシントン大学大学院に留学され、国際通貨基金(IMF)で働くようになられたのですが、もともと国際機関で仕事をしたいと考えて留学されたのですか?

富永

いいえ。最初は、自分が専門にしていた人事関連のことをもっと学びたいと思い、それであればアメリカのほうが先進国でしたし、単純に海外に住んでみたいという気持ちで決めました。そのため、卒業後は、どこかの企業で人事関連の専門職として仕事を続けていくのかなと漠然と考えていました。

佐藤

では、国際機関に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか?

富永

留学して半年くらい経った2007年4月に受けた「International & Multicultural Human Resource Development」という授業がきっかけです。これは、さまざまなカルチャーを背景にした人々が一緒に働くということを考える授業で、実際にそのような職場で働く人にインタビューするという課題があったんです。私は人づてにご紹介いただいた世界銀行の人事部の方と、もう一人別の国際機関の人事の方のお話をうかがいました。それをきっかけに国際公務員に興味を持ちはじめ、国際公務員になるにはどうすればいいのか、情報収集を始めたのです。

佐藤

先日、夏休みを利用してアメリカを訪れた際に、富永さんにご紹介していただき、ジョージワシントン大学のキャリアセンターでお話をうかがいましたが、改めて、“ホワイトハウスの隣にある大学”というのを実感しました。就職活動を考える学部生向けに、先輩を招いてのインターンシップ体験談セミナーを開催していて、それを見学させていただいたのですが、招かれた4人の先輩学生は、たまたまだったのかもしれませんが皆、国際協力機関や、議員事務所、公共機関でのインターンをしていました。

富永

ワシントンD.C.という地域の特徴かもしれませんね。私の勤務するIMFや世界銀行は大学のすぐ隣にあります。

佐藤

具体的に、どのような方法で情報収集や就職活動を進めていかれたのですか?留学を考えている方の中には将来国際機関で働きたいと思っている方も多いので、参考にさせていただけるとうれしいのですが。

富永

国際公務員になる場合、実務経験、学歴、年齢によっていくつか入り口があります。30代前半くらいまでの方は、条件が合えばJPOという制度や各機関独自の若手採用プログラム、国連職員採用競争試験などに応募することができますし、その情報については、外務省の国際機関人事センターのページで詳細を確認できます。とはいえ基本的には空席ができたときに公募する中途採用がメインです。私の場合は、「若手」プログラムには年齢オーバーだったので、中途採用での応募でした。空席が出た場合に諸条件が明記された広告が各機関から出るのでそれに応募していくのですが、その情報は、各機関のウェブサイトに載っています。外務省の国際機関人事センターのサイトや、ICSC(International Civil Service Commission)のサイトのジョブオポチュニティのページには各機関の空席公告ページへのリンクが直接張られているのでよく活用しました。私は、各機関の求人広告を毎週しつこくチェックし続け、可能性のあるものにはどんどん応募していきました。その一方で、学生生活を通じて知り合ったさまざまな人の紹介で、国際公務員として仕事をしている人に話を聞かせていただいたり、国際機関の採用に関するセミナーに参加したりして、現実の「国際機関の人事」という仕事をより具体的にイメージできるよう情報収集を続けました。セミナーでの説明だけではよくわからなかったときは、さらに詳しいお話をその方に直接うかがえるよう、個人的にアポをとったりしていました。日帰りでニューヨークまで出かけていったこともあります。

佐藤

大変、積極的に行動されたのですね。Webなどで調べられる情報収集も大切ですが、直接いろいろな人に話を聞くことが、卒業後のキャリア形成には非常に大事なことだと、私は常々考えています。新卒の場合、OB訪問という言葉がありますが、マニュアル化した形式的な活動方法ではなく、自分のなりたい職業の人や情報をもっている人の生の声を聞くことはとても大切ですよね。

富永

ええ。その通りです。私の場合はもともと人事をやっていたので、求人広告を見るのは趣味みたいなものだったのですが(笑)。調べていくと、具体的にどのような人を求めているのかわかってきます。求人広告に書かれている条件が何を求めているのか、読み取るコツのようなものがありますから、いろいろ調べて、多くの人に話を聞き、実際にたくさん応募してみることが大事だと思います。
「自分なりのプロとしての領域を作らないと、今後仕事を続けていけない。派遣社員でそれに気づいたのが、プロ意識の芽生えでした」 富永こずえさん/国際通貨基金(IMF)人事部人事オフィサー 日本で派遣社員として働いた経験が、自分のキャリアを真剣に考えるきっかけに

佐藤 富永さんは、派遣社員で仕事をしたことで、ご自身のキャリアを真剣に考えるようになったとおっしゃっていましたが、それはどのような理由からですか?

富永

大学卒業時には、自分の将来のキャリアのことなど考えたこともありませんでした。なぜだかわかりませんが、就職して、結婚して、専業主婦になるのが普通だと漠然と考えていたんです。それが、結婚して一度仕事から離れ、所属する団体がなくなって初めて、社会から必要とされていないような、社会の一員ではなくなったような焦燥感を感じました。思えば自立した大人としてのアイデンティティの確立が未発達だったんだと思いますが、お恥ずかしい限りです。7ヵ月くらい悶々としたあと、社会とつながりを保ち、また自分のおこづかいを稼ぐ程度の軽い気持ちで派遣に登録し、働き始めることにしました。実はその派遣社員の経験が、私のプロ意識の原体験になりました。派遣社員は会社に縛られず、ただ正社員の補助的な仕事をすればいいんだろうと最初は考えていたのですが、会社に縛られないというのは裏を返せば保障もされないということですから、正社員以上にその道のプロとしてのしっかりとしたスタンスと領域を持たないと、ずっと続けてはいけない就業形態だと気づいたのです。派遣社員で複数の会社やそこで働く多くの社員や働き方を、一歩ひいて見る機会を持つことができたのと、派遣契約で働くことの不安定さを経験したことも大きかったと思います。そこで、自分は一体何ができて、どんなことをしたいと思っているのか、また、それが社会ではいくら位で評価されるのか。初めて自分と向き合い、自身の棚卸を真剣にしました。

佐藤

自分自身を振り返る際、どなたかに相談したりしましたか?

富永

いえ。今ならキャリアカウンセラーと話をするなど、いろいろな方法があると思うのですが、当時はそれがなかったので、本を読んだりして独自に自分自身を振り返りました。手探りで進むうち、どうやら「人をサポートすること」と「国際的なこと」が好きなのかもしれないとわかってきたのです。とはいえ、「人のサポート」は何とかなるにしても、「国際的」というのは簡単ではありませんでした。実は私は英語が苦手で、ちょうどその時秘書として派遣されていた会社の上司に入る海外からの電話にも満足に受け答えできないレベルでした。当時の私はTOEICが450点くらいしかなかったんです。それでまず、英語力を身につけようと英会話教室に通ったり、実地でやらなければ上達しないと、あえて外資系に派遣してもらったりして、2年くらいかけてTOEICを約倍の892点まで伸ばしました。その一方、自分のプロとしての領域を確立するため、社会保険労務士の資格も取得し、人事・労務領域の仕事をスタートさせました。派遣社員の経験があったからこそ、次に何をすべきか、そのために今何を準備すべきかといったことを、常に考えるクセがついたのだと思います。

佐藤

目標をしっかり持って、自分で決めて、自分で選択するという体験ですね。自分らしいキャリアを積み重ねていくためには、この行動が非常に重要になりますね。

富永

そうなんです。とかく日本の学校では、みんなと一緒、同じように行動するということを教えられがちですが、本当は、自ら進んで自分なりのゴールを設定して、自分で選び行動することが、すべての基本になると痛感しています。

佐藤

では次回は、そんな富永さんが、どのような留学体験をされたのか、具体的にうかがっていきたいと思います。
「目標をしっかり持って、自分で決めて、自分で選択するという体験が、自分らしいキャリア形成にはとても大切ですね」 佐藤江利奈/留学ジャーナル キャリアカウンセラー
--photo--
プロフィール
とみなが こずえ/国際通貨基金(International Monetary Fund)人事部人事オフィサー。慶應義塾大学文学部卒業後、外資系会計事務所、ソフトウェア会社等で人事業務の経験を積んだのち、2006年フルブライト奨学金及びロータリー奨学金を獲得し、アメリカ合衆国ワシントンD.C.にあるジョージワシントン大学大学院にて人材開発修士号を取得。現在はIMFに人事オフィサーとして勤務する傍ら、日本人の国際公務員への就職支援、女性のキャリア支援、ワークライフバランス等に興味を持っている。社会保険労務士(渡米中につき登録抹消中)、産業カウンセラー、PHR(プロフェッショナルHR認定)、SHRM会員。






--photo--
富永さんの母校であるジョージワシントン大学でのキャリア講座の一コマ。学部生向けに先輩たちがインターンシップの体験談を語っている。ワシントンD.C.という地域の特徴かインターン先は国際機関や政府関連の団体が多い。






--photo--
外務省の国際機関人事センターのページやICSCのページなどで各組織の空席広告情報をチェックするのはもちろんのこと、実際に働いている人の話を聞くチャンスを得るべく、積極的に行動しました。






--photo--
派遣で働いた経験は、自分のキャリアについて真剣に向き合うきっかけになりました。







--photo--
佐藤江利奈
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。
(株)リクルートでの採用支援の企画営業、人材紹介会社でのコーディネーターなどを通して、これまで大学生から社会人まで幅広い年代2000人以上の就職・転職希望者に対しセミナーやワークショップ、キャリアカウンセリングを行う。
次のページへ >
<帰国後の就職も考えよう トップページへ > もっと見る
留学ジャーナルモノになる留学へ。
帰国後の就職も考えようキャリアの達人に聞く43の紹介ページです。
短期留学や語学留学はもちろん、ワーキングホリデー、大学留学、大学院留学まで幅広くご紹介している留学ジャーナルが、皆さんの海外留学への思いをカタチに変えます。海外留学の実現は、留学ジャーナルで!