留学成功の秘訣
留学の目的は明確な方がいいと言われている。でも、洪さんの目的は、いわゆる「語学力をつけたい、世界をこの目で見たい」という漠然としたものだった。「孫さんの本の影響も大きかったのですが、研究室で忙しくなる前に、世界に出て、語学力をつけたいと純粋に思ったんです。行き先をアメリカにしたのは、僕の研究であるロボットの分野で最先端だったことと、父親から『どうせ行くなら、大都市でいろんな人に出会って、もまれて来い』というアドバイスを受けたから。その分、費用はかなりかかりましたけれど」 大学3年を休学して4月に渡米。ホームステイをしながら、サンフランスシスコのSt. Gilesという語学学校に通う。当時の英語力は「TOEICは、点数が低いのを知ってしまうのが怖くて受けなかった」というぐらい自信がなかった。当然、最初の3週間は、聞くことも話すこともできなかったそうだ。「留学の目的は英語力の向上なんだから、とにかく勉強しようと思ったんです。でも最初はやり方を間違えてしまった。受験勉強のクセがついているのか、授業が終わった後、人とはしゃべらずにスタディルームにこもって、単語と文法をひたすら書いていたんです。せっかく海外にいるのに、日本と同じ勉強方法(笑)。で、ある時に気づいたんです。『せっかくアメリカにいるのに、僕は何をしてるんだ』と。『とにかく人と話して、先生や友人が話すフレーズを真似することから始めよう』って」。彼の魅力は物おじをしないこと。こうと決めたらやり遂げること。それからは、クラスの日本人と話す時も、自分に「日本語禁止」のルールを設け、使える英語を身につけるように努力したのだ。 自信がついたのは、サンフランシスコから、NYのコロンビア大学までの旅。オレゴン、シカゴ、ボストンを経由してNYまで行く全過程を、一人でプロデュースした。「留学生なら440ドルで電車乗り放題というチケットを見つけて、たった一人で旅をしたんです。途中、電車が蚊の大群に襲われて、まさにヒチコック映画『鳥』の恐怖にも似た体験もしたけれど、大荷物を抱えながら、英語のガイドブックを買って、宿も手配して、すべて自分で成し遂げたときはうれしかったですね。『この先、僕はどんな状況に放り投げられても何とかできる』……自分の新しい可能性が見えてきたんです」 語学はメキメキ上達した。同時に世界各国の友人ができたことで見聞が広まったと洪さんは言う。「今までは、海外のニュースは見ていたけれど、内容はスルーしていたと思うんです。でも、留学してからは、例えばトルコで何かがあったとすると、『彼(友人)の国で、こんなことが起きて大丈夫かな』って思う。ニュースとの距離が近くなったというか、目が日本だけでなく、きちんと世界に向いてきたんだという実感を得ましたね」
留学中、就職のことは考えていなかった。ただ、クラスにいる様々な人々、例えば元商社マンや会計士たちとコミュニケーションすることで、「自分の強みをどこに置いたらいいのか」を考えるようになったと言う。「正直、留学中には答えは出なかったんです。でも、『考えるクセ』がついたことはすごく良かったと思いますね」。 帰国後は、予定通りに研究に没頭した。一方で、怖かったTOEICを受けたら820点。研究の節々で、「英語力を高めて良かった」と感じるようになる。「ロボットの研究は世界各国でなされているので、英語の論文が多いんです。英語アレルギーがなくなったお陰で、高度な論文を読めるようになった・・・つまり、最先端の情報を積極的に取りに行けるようになった。これは大きいですね。それに、国際会議にも2回連れていってもらえたんです。英語で研究を発表するなど、研究を深めたり、精度を高めるツールとして、英語はかなり役立ちました」 就職活動では、留学経験よりも、専門分野について語ることが多かった。だから「留学が就職に効いたかどうか」はわからないと洪さんは正直に答える。「ただし、僕自身について言えば、未来につながる留学だったと思います。ツールとしての語学力を得たことはもちろん、見聞が拡がり、人脈が拡がり、そして、自分で考えて行動することを学びましたから。それに、やっぱり何事もナマのものに触れてみないとわからないって思うんです。僕が短期で語学を習得できたのも、霧の中にいるような、どこに行っていいのかわからない状況に身を置いたから。そうすれば必死にならざるを得ない。だからもし、『留学、どうしようかな』って悩んでいる人がいたら、絶対、行ってみるべきです。何かをつかもうという気持ちさえあれば、僕のような漠然とした目的でも、成果のあるものになりますよ」 4月からは社会人になる洪さん。活躍の場は大手総合商社。「ロボットの研究とマーケットをつなげるような大きな仕事がしたい。海外にもどんどん行きたい」という夢が実現する日が待ち遠しいと言う。
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