海外経験者に期待するのは、「一歩先」ではなく「半歩先」を見つけるセンス
「ハードロックカフェ」や「エッグスンシングス」、「ウルフギャング・ステーキハウス」をはじめ、海外の人気外食ブランドの展開を手がける株式会社WDI。単に飲食をする場ではなく、世界中の食文化を感じながら、スローガンである「しあわせが出逢うテーブル。」が体験できる、それぞれのユニークなレストランブランドに魅了されるファンは多い。同社が手がける店舗の大きな魅力の1つが、本国の雰囲気をそのまま再現したその“世界観”だ。代表取締役を務める清水謙さんに、その極意や大切にしていること、外食産業において海外経験者だからこそ活かせる強みを伺いました。
海外に行く前に、自分の足で日本のスピリットを学んでほしい
田仲海外に関わる仕事をしたい人がイメージしやすいのは商社や航空業界などで、外食産業というのは思いつきにくそうですが、スタッフに留学経験者は多いのでしょうか?
清水現状では、それほど多くないかもしれないですね...。ですが、いまは日本の社会に外国人が必要とされていますし、今後もその需要は増えると思います。そのようなチームメイトと円滑に働けるようなグローバル感覚を持った日本人スタッフが今後はますます求められるでしょう。WDIは明確な海外戦略があるので、国際化されている日本の現場を経験しながらステップアップして、それから海外でチャレンジしてもらいたいと考えています。
田仲まずは国内なのですね。外食産業は、居酒屋のアルバイトなど、店舗で忙しく働くイメージを持つ学生も多いと思います。
清水若いスタッフにはまずは店舗を経験してもらいます。お客さまに一番近い場所が店舗であり、最も重要だと思います。とくにインバウンドのお客さまが多く来店されるような店舗で活躍してほしいですね。もうひとつは海外戦略。海外のブランドを輸入しようとするときのメンバーに入ってもらいたい。そのようなステップを踏んで、最終的には海外のブランドオーナーと契約するときの交渉や契約書のチェックなど、サポートの仕事もお願いしたいと思います。それまでは、あくまでも主役である店舗に携わってほしい。というのも、お客さまに最も近い現場の気持ちを理解していなければ仕事はスムーズに進みません。
清水飲食店の仕事の醍醐味は、経営のあらゆる要素がひとつの小さな箱に入っていることです。財務やマーケティング、ヒューマン・リソース(人事)、サプライチェーンマネジメント(供給連鎖管理)のすべてが含まれます。店長は一国の主、ひとつの会社の経営をしている社長と同じくらいのマインドが必要なので、将来起業したい人にもいい学びの場ではないでしょうか。グローバルな環境で仕事をしたいのであれば、WDIはさまざまな国籍の仲間たちと一緒に仕事ができるチャンスがあると思います。
田仲経営のノウハウや本物のホスピタリティ、食文化の伝道師としてのスキルを身につけられるのは魅力的です。海外に出向するには、どのようなキャリアパスがあるのでしょうか?
清水いまのところモデルはありませんが、英語がどの程度できるかは、やはり重要です。TOEICスコアなどはひとつの評価基準にはなります。TOEIC700点以上あればチャンスが増えるのは間違いありません。ただ700点以上あってもだめな人もいれば、それ以下でも大活躍する人もいるので、単純な判断はできません。その人の性格や、相手を巻き込んで懐に入り込む「人間力」のほうが重要かもしれません。
田仲創業者はお父さまと伺っています。お父さまが手がけられたお店を、小さいころから好奇心をもって見ていたからいまこうして経営ができているのでしょうか?
清水それは確かにあるでしょう。先代たちは、とにかく新しいものをいかに早く見つけるかに力を入れていました。しかし、いまは先代の時代と違い、新しすぎるものは危ないと感じています。「半歩先」ぐらいがちょうどよくて、「一歩先」を行くと早すぎる。30年前に比べて時代の流れが早くなっているので、「一歩先」だとやりすぎてしまうんです。「半歩先」をどう見つけ、そのノウハウをどうWDIらしくアレンジできるかが重要で、この「半歩先」を見つける感性は、海外留学生活で多様な文化経験に依るところが大きいと思います。
田仲「一歩先」ではなく、「半歩先」を見極めるための海外経験とは、どのようなものでしょう?
清水"本物"と"偽物"をかぎわける力でしょうか...。イメージ重視で一時のブームで終わってしまうものなのか、文化を持って根付きそうなのか、その空気感を見極めることが大切です。なかでもWDIがキーワードとして挙げているのが「本物志向」、「ホスピタリティ」、「グローバル感」。この3本の矢が刺さると、ブームで終わらないと肌で感じていますね。実は、私自身も高校3年生のときに1年間、アメリカの西海岸に留学したことがあって、そこでの経験が価値基準のベースになっているかもしれません。
田仲留学はご自身の意思でしたか?
清水そうです。私が小学生の高学年のころ、父がハワイに「トニーローマ」1号店を出店したので、比較的海外は身近にはありました。幼少期からサマーキャンプにも嫌々行かされていました。きっかけとなったのは、中学・高校生のころのインターナショナルスクールの友人です。英語の会話についていくことができず、やっぱり海外に行くしかないと思って自分で決めました。
田仲もともとグローバルな家庭環境だったとは思うのですが、留学経験は清水さんが社長になってからも活かされていると感じていますか?
清水もちろんです。海外展開のバリエーションは飛躍的に広がりましたし、業績も伸びています。留学経験や幼少期から海外を見てきたことで、先代を後押しできている実感はあります。
田仲海外に行くことに踏み切れない人、これから行こうと思っている人たちにメッセージをお願いします。
清水「どうしようかな」と迷っている人には「行かないと先はないよ」と伝えたいです。今後日本国内だけで勝負できる人というのは、2割くらいじゃないかなと思います。残りの8割は、海外のことを理解して、海外の人とも仕事をする意思を持っていないと活躍の場がありません。それほど日本には資源がないことを実感してほしいです。国際社会は進化しているし、日本も国際社会を目指しています。
清水もし、海外に行くことが決まったら、やるべきはまず日本を知ること。日本を旅行してごらんなさい、と言いたい。出雲大社や伊勢神宮など、日本人のスピリットというものを実際に自分の目で見て、肌で感じてほしいですね。本やインターネットで見るだけでなく、実際にその土地のものを食べて、現地の人の話を聞いて、日本の良さを体感してから海外に行くのが理想的です。そして、海外に行ったら、思いっきりその土地の文化を楽しんでください。日本人であることを忘れて、その国の文化にどっぷり浸かる。そうすることで初めてわかる、"外から見る日本"が非常に重要です。日本のよさを理解していなければ、海外で魅力的な商品があってもその価値を客観的に判断することはできません。
田仲いいところも悪いところも含め、留学先と母国を客観的に見ることが大切なのですね。
清水そうです。海外経験者には、一歩引いた場所から物事を見ることができる人が多い気がします。例えば、日本のニュースだけで、その国の印象を決めたりはしません。それは、一部の出来事や意見であって、その国にはいろいろな人がいることを理解できていますからね。海外で多様な価値観に触れると、メディアの情報に踊らされず、「自分の考え」を持つことができるようになります。これは、将来どのような職業に就くうえでも大切になるでしょう。異文化を知る次世代の若者たちと一緒に、これからも"圧倒的な非日常"を提供していきたいと思っています。