人事のための海外へ社員を派遣するときの心得

スーパー人事のための 海外へ社員を派遣するときの心得

現在、企業の規模に関係なく、海外への展開やグローバル戦略の必要性に迫られている日本社会。
人事担当者としては、その中で「戦略的に何ができるのか」をしっかり考えなければいけない時代になりました。

組織は戦略に従う』。チャンドラーの命題です。
海外展開・グローバル戦略を行う企業では、人事・組織の視点から戦略を立案することが非常に重要です。何より海外展開するのは、製品でもシステムでもなく『人』が中心にならざるを得ません。
「『人』を中心にしない海外展開などあり得ない」とさえ言えます。

そうした観点からも、従業員を海外に派遣する上で、従業員をどのように処遇し、どう扱うかは大きな課題となり、以下3つの心得が必要と考えます。

1. 派遣時の社会保険、労働保険、年金、税金の仕組みを的確に把握する

まず、「派遣」と「出向」は違います。

出向には、「在籍出向」と「転籍出向」がありますが、これは雇用関係に着目したものです。グローバル戦略を展開するにあたり、すでに海外に関係会社や子会社がある企業や現地企業の合弁会社なのか、はたまた単なる工場やオフィスだけなのかなど、それぞれの企業が置かれている状況、また派遣か出向などの違いによって社会保険等は複雑に変化します。さらに、派遣先の国によっては、社会保障協定を締結しているかなどでも人事担当者の対応は大きく変化します。

詳細な説明は専門家に任せるとして、何より重要なのは担当者の『当事者意識』です。
派遣される従業員にしてみれば、会社の社会保険等を管理しているのは人事担当者です。人事担当者が従業員をしっかりケアしている姿勢を見せることで、従業員は現地の派遣先で頑張れるものです。まず現地で安心して生活ができ、落ち着いて業務に取り組める環境を整えてください。

安心できる環境の例として、健康保険の問題を取り上げてみましょう。
健康保険について資格継続ができる場合、海外で治療等を受けた後、海外医療費の還付請求を行う必要があることが考えられます。海外では保険証が使用できないため、全額自己負担を行う必要が出てきます。その際に、民間の海外旅行傷害保険などと組み合わせることで自己負担軽減の対応もできます。海外派遣が決まったら、民間保険会社を活用することが大きな安心材料につながるため、綿密な打ち合わせを忘れないように心がけておく必要があります。

2. 派遣・出向の目的明確化と従業員選抜の関係性

率直に質問します。
貴社の海外展開またはグローバル戦略の目的は何ですか?

こう聞くと、「経営層の方針だから…」「競合が海外展開しているから…」「取引先からの要求…」などという回答がよく見受けられます。「戦略は経営陣が考えることで、人事担当者はそれに従うだけですから…」というお話もよく耳にします。しかし、本当にそれでよいのでしょうか?

先にも述べましたが、『組織は戦略に従う』です。経営陣がなぜ海外展開を考えているのか、その目的を明確に咀嚼しなければ、なかなかうまくいきません。海外派遣において人事担当者は、海外展開する人選に始まり、渡航準備、処遇面の詳細説明、人員の国内での教育や現地ケアなど波状的に業務を展開していきます。そんな中、スムーズにいかない要因の一つが、「なぜ海外展開をするのか」を人的資産面で検討せずに実施してしまうケースです。これこそ、人事担当者がよく陥る落とし穴です。

そもそも、目的が明確でないのに、どうして人選できるのでしょうか?海外派遣する人員の資質として、「メンタル」「サバイブ」「フレキシビリティ」そして「フィジカル」が挙げられます。
海外派遣では困難に耐えることも必要になります。そうした点から、メンタル面は非常に重要視されます。サバイブとは、まさに生き残る力です。メンタルに通じるものですが、現地でまずは自分が生き残る(生活する)術を見出すチカラが必要です。これは生活面や自己業務遂行でのマネジメントや、現地スタッフのマネジメントも含まれます。そしてフレキシビリティつまり柔軟性です。これは生活面というより、異文化を受け入れつつ、日本人としてのアイデンティティを維持するための柔軟性です。最後にフィジカル=体力です。健康を維持することは、現地業務を遂行する上で重要な要素です。
企業が海外へ「誰を」派遣するか検討するとき、まず、目的=求められる成果は何かを明確にして、それを実現できる可能性が高い人材を選抜しなければなりません。その上で上記4つの側面からランク付けをして選抜することが重要です。

海外派遣=まず語学力という気持ちは理解できますが、語学力は後から習得することができる後天的能力です。派遣期日までに集中的に教育し、現地で学校等に通わせれば、おのずと習得できます。しかし、メンタルやフィジカルは簡単に訓練できません。人事担当者としては、選抜する任命責任と当事者意識をもって対応していく必要があるかと思います。

3. リスクコントロールとバッドケース(最悪シナリオ)の想定

人事担当者として必ず考えておかなければいけないことが、
『リスクコントロール』です。

派遣先によって、『リスク』の種類は多岐にわたります。政治的情勢に始まり、商慣習でのトラブル、衛生面や健康面、現地の職場環境や人間関係、地理的リスクや自然災害のリスクなど、挙げればきりがありません。つまり、すべてのリスクに対して事前に対応策を準備しておくことなど、現実には不可能に近いのではないでしょうか。
例えば、派遣先で経理業務をはじめ、管理業務を現地採用人材に任せていたら、コンプライアンスがうまく機能せず、会計で不正が発生したなどのケースはよく耳にします。これは、現地に派遣した人員にも「人間不信」などの精神的ダメージが発生してしまいます。

『リスク』はある程度想定する必要がありますが、最後は派遣した人員の業務遂行能力に依存するところが多分にあります。しかし、人事担当者としては、想定できるケースに対してある程度策を講じておく必要があるのも事実です。会計的問題であれば、「2名体制で派遣する」「世界規模で会計会社に依頼する」などが考えられますし、政治的・社会的情勢不安に対しては、「迅速に脱出できる手段を複数用意しておく」などが考えられるのではないでしょうか。また、けがや病気などについても民間保険会社と連携すれば対応可能です。
では、最悪の事態として考えておく必要があるバッドケースは何でしょうか?一つは不幸にも現地で亡くなってしまう場合。これは、国内や一緒に同行している家族へのケアも含めて非常に重要です。人事担当者は実務面での対応を優先し、迅速な諸手続きを実施します。家族へのケアは、その重要度からも経営陣がチームを組んで対応するなど、対応業務を切り分けて行うことが良い場合もあります。

そして、人事担当者または経営者として見落としがちなのが『撤退』です。
つまり、現地から設備や資産など人的面も含めてすべて引き上げることです。経営的失敗による撤退以外にも、戦略的撤退ということも含めて考えておく必要があります。撤退は派遣同様、いろいろな手続きが必要になります。また、撤退に際して設備等を引き上げられず、メーカーなどでは金型などの重要資産を置いてこなければいけないケースなども考慮しなければいけません。さらに人事担当者の役目として、帰国に際して現地での税金や社会保険の清算、帰国後の手続きや派遣期間中の社会保険等の対応など、派遣時同様にかなり複雑な手続きが必要になります。
さらに撤退時には、時間的制約がついて回ります。派遣時よりも複雑で、慣れない業務を短時間で正確に完了しなければいけないのが実情です。そのために、人事担当者は『撤退』を想定したシナリオを事前に考えておくことが大切です。さらに、リスク管理という面で、経営的にも人事担当者としても、最悪シナリオに基づく対応策は準備しておくべきでしょう。

以上、海外展開やグローバル戦略で人事担当者が心得ておいた方がよい点をいくつか挙げました。
これ以外にも知っておくべきことや対応しておくべきこと、検討しておくことなど、専門領域での複雑な話は多々ありますが、何よりも人事担当者としての最重要要素は、
組織・人事と経営は、直結していると認識すること」です。 人事担当者といえども、経営マインドをしっかり持って対応していくことが重要ではないでしょうか。

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