就活への不安から休学留学を決めた柴田淳也さん。1年間でカラーの異なる北米の3都市に滞在し、その土地だからできることに体当たりで挑戦。持ち前の明るさと素直さ、そして行動力から、周りの人々に受け入れられ、留学前に掲げた2つの目標を達成した。困難を乗り越え、成長した数々のエピソードを持ち帰り、就活に挑んだ柴田さんのストーリーを聞いた。
「『就職活動での"自分の売り"が欲しい』。短期留学を思い立ったのはそれが理由です。それで、大学2年の春休みにカナダに1ヵ月留学したけれど、売りにできるほどの英語力は身につかなかった。でも、すごく楽しかったんですよね。帰国後、もやもやした思いを抱えながら大阪のカウンセリングセンターで行われている英語講座に行ったら、これから休学留学する大学生がたくさんいて。自分も休学留学しようと決断するのに時間はかかりませんでした」。
短期留学から帰国して1ヵ月経たないうちに、次の留学に向けたカウンセリングを受けた。決めていたのは、この留学でとにかく英語力をつけることと、「カナダのスターバックスでアルバイトをすること」。2つの目標を達成するために、前半は勉強に集中できる環境で過ごし、後半はワーキングホリデービザでカナダに行くプランを立てた。「カナダのスタバで働いていたアジア系カナディアンがかっこよかったんです。単純に憧れました。自分もあんな風に働いてみたいって」。
大学3年の秋から休学し、まず渡ったのはコロラド州デンバーだった。勉強に集中するために都会ではない環境で、大学のキャンパスで開講している語学学校ELSを選んだ。「平日、授業を受けたあとは図書館に行って宿題を片づける。周りの学生がみんなそうだから、もう勉強するしかない。でもここで基礎力を身につけることができました」。2ヵ月目からは、キャンパスで知り合った学部の学生とシェアハウス。学生らしい生活は楽しかったが、広いアメリカ、もっと違う環境も体験してみたい。「ニューヨークに転校することにしました」。アメリカ各地に校舎があるELSは転校がしやすいのもメリットだ。一転、世界一の大都会へ。
「ニューヨークのELSには様々なバックグラウンドを持つ学生が通っていました。社会人も多く、その中に日本から企業派遣で来ていた公認会計士の方がいたんです。その方にニューヨークで成功した日本人の集まりに連れて行ってもらったことがありました。実は当時、スポーツエージェントになりたいという夢があって、その場で話をしたら、君が本気ならスポーツエージェントになる夢をサポートしようと言ってくれた人がいた。でもそのためには、日本の大学を辞めて、アメリカの大学で学び直す必要があると。・・・自分にはできなかったですね。そこまで夢に賭けることはできなかった。自分の方向性を真剣に考えるきっかけになりました。アメリカで日系企業に勤める人たちとの出会いは大きかったです。皆、自分たちは "日本のために"ここで働いていると言う。そんな言葉を聞くうちに、自分も就職するのは外資ではなく日本の企業で、日本のために働きたいと。進みたい道が少しずつはっきりしてきました」。
そしてバンクーバーへ。ここでの目標は決まっている。スターバックスでアルバイトをするのだ。2ヵ月間、ELSバンクーバー校に通った後、早速、ある店舗の面接を受ける。面接はこんな感じだ。
「今まで生きてきた中で、改善点を見つけて解決したことがあれば、話してほしい」
「あなたの同僚が上司とうまくいかずにストライキを起こそうとしたら、どう対応する?」
「仕事が覚えられなかったらどうする?もしくは同僚がそんな状況だったら?」
日本のアルバイトとは勝手が違う面接に面食らった。そして、面接に落ちた。気を取り直して別の店舗を受ける。不採用。そしてまた別の店舗を受ける・・・。「結局4つの店舗で面接に落ちました。でも、この留学で掲げた目標はスターバックスでアルバイトすること。成し遂げずに帰国するわけにはいかない、そこまで思い詰めていました」。
そして5店舗目。質問の傾向もわかってきた。英語での答えを準備して臨んだ面接。うまくいったか分からない・・・。居ても立ってもいられなくなった。「面接で、ちょっとまずかったかな、と思った受け答えがあって。言い直そうと思って電話をしたんです。そうしたら『ちょうど今、君のレジュメを見ていたところだったよ。英語が今一つだけれど、一緒にうまくやっていけそうだし、君を採用しよう』と。もう、運みたいなものでした」。念願のスターバックスで4ヵ月間アルバイトするなかで、生きた英語がどんどん身についた。お客様と接する中で対人能力も磨かれた。この経験を就活に活かさなければ。
帰国して2ヵ月後、就活解禁。目指すは「海外で働くチャンスがある日本の会社」だ。目指すイメージは明確だったが、絞り込み過ぎることにも不安があった。一旦枠を外して、貿易、メーカー、リース会社、人材、ベンチャーなど幅広く受けてみたが、方向性がぶれて思ったように進まない。キャリアカウンセラーに相談した。「留学経験は自分のアピールポイントだと思っていましたが、どのようにアピールすればいいのか。留学での様々なエピソードを引き出し、整理してもらいました」。英語力を大きく伸ばしたこととスタバでのアルバイト、留学で2つの目標を達成したエピソードをアピール。結果的に、イメージしていた「海外で働くチャンスがある日本のメーカー」から内定を得ることができた。
社会人になって丸一年が経った。「地元のルート営業からスタートしています。海外で働くという夢までとても遠く感じますが、次の目標があります。会社派遣のMBA留学です。今、1日1時間の英語の勉強を継続するところからスタートしました」。
「留学をどうアピールすればよいのでしょうか?」。柴田さんがキャリアカウンセリングを受けに来たのは、その年の就活が解禁になる直前でした。単に3ヵ所に留学した行動力というだけでは弱い。それぞれの留学先でどんなことをしたか、ヒアリングしました。デンバーやニューヨークでも、それぞれエピソードはありましたが、何よりカナダのスターバックスのアルバイトからは頑張ったエピソードがたくさん出てきました。
初めて出勤した日、レジに立ったものの、2時間で50人来たお客さんのオーダーを、ひとつも正確に聞き取れなかったそうです。せっかく合格したのにこれじゃダメだ!でも、そこでの頑張りが素晴らしかった。レジをスマホで撮り、レジのどのボタンがどのメニューかを頭に入れ、ネイティブの友達に実際の速さでオーダーをしてもらいながら、コーヒーを入れるシミュレーション。それぞれコーヒーメニューの作り方を覚えるために、スタバのレシピを手書きで書き写し(レシピのコピーは持ち帰り厳禁)、家で作り方を覚えて練習。1ヵ月後には余裕をもってこなせるようになったそうです。
その後は、レジに並ぶお客様の動線改善を提案したり、提供する飲み物の材料の配合を変えてみてお客様に喜ばれたり、トイレ掃除を人一倍頑張ったりして、お客様が選ぶ月間MVPに選ばれた。これらは具体的でとてもいいエピソードです。困難にぶち当たったときに、努力して乗り越えたエピソードを、ESや面接に盛り込むようアドバイスしました。
柴田さんは、就職活動で様々な業界・業種を受けています。最初はメーカー、その後、業種を問わずに気になる会社にエントリー。いろいろな企業を受けながら、企業研究をしていた側面もあったのでしょう。ただ、志望業界が広がった結果、それぞれの業界研究、企業研究を十分にできないまま、選考に臨むことも増えてしまったようです。企業研究が浅いと、最初は良くても面接を受けるうちに必ず企業側に伝わってしまいます。もう少し業種を絞れば、業界研究、企業研究がもっとスムーズだったように思います。しかし、紆余曲折を経たものの、最終的には最初に受けた資材メーカーに入社を決めています。いろいろな業種を受けたことで結果的に自分の方向性の確信を強めることができたのでしょう。
業界研究・会社研究は留学中、海外にいてもできることです。会社のホームページを見れば、ビジョンや理念がわかりますし、それぞれの企業の違いも調べられます。ニュースを検索すれば、その会社の最近の動きもわかります。留学先に拠点がある企業なら、直接訪問してみるのもいいと思います。小さい営業所なら結構会ってくれたりしますし、そこでどんな仕事をしているのかを知ることもできます。柴田さんもニューヨークで現地の日本人の社会人と出会うチャンスに恵まれ、日本企業の海外支店で働くことについて話を聞いていますが、この経験が職業観に大きく影響しています。