留学成功の秘訣
小田さんが留学、そして帰国後の就職に成功したのは、おそらく留学前の覚悟にあったのだろう。大学4年生のとき、公務員試験に受かった。その先には安定した人生が待っていたはずなのに、彼はそれを棒に振ったのだ。「安定しているという理由だけで、公務員という仕事を選んでいたんですよね。受かったあと『これで満足行く人生が送れるのか』と自分に問い正してみたら、答えはNOだった。受ける前に気づけって話なんですが(笑)、そこから自分の人生を真剣に考えて、留学することに決めたんです。実は中2の時に1ヵ月だけオーストラリアに短期留学をしたことがあって、英語はずっと好きだった。それで、『仕事で英語を使いたい』と思ったんです」 大反対の親を説得して、公務員を辞退。留学費用は卒業後に1年間アルバイトをして貯めることにした。「卒業する前が一番悩みました。友人はみんな就職するのに、僕はいわゆるプー太郎になるわけですよね。ホントにそれでいいのか。留学後、実務経験のない僕に仕事はあるのか。最悪のことまで考えて『それでも後悔しない』という大きな覚悟で留学を決めたんです」 留学先は、高い教育が受けられるのに学費が安いということで、カナダのPacific Gateway International College のバンクーバー校に決めた。期間は1年間。「僕の目標は、仕事で通用するビジネス英語を身につけること。それには1年間かかると計算したわけです。あと、現地では絶対にインターンを体験しようと決めていました」。 海外は中2のオーストラリア以来。空港に着いた瞬間から、何もかも自分でやらなければいけないことに少々面食らいながらも、留学生活は楽しく始まった。「住まいはホームステイ。17歳と12歳の子どもがいたので、積極的に話しかけましたね。学校は語学学校なので日本人が多かったけれど、僕は『日本語は絶対話さない』と決めていました。日本人のクラスメイトは、大半が大学を休学してやってきた人で、彼らには帰る場所がある。でも、僕にはない。『ここで仕事に結びつけるぐらいの英語力を身につけないと、先はない』という背水の陣で来ているから、モチベーションも人一倍高かったと思います」 留学中は、とにかく「スピーキング」に力を入れた。自分が一番弱いのが話すことだと自覚していたからだ。「留学前の1年間で文法や単語力はつけていたから、短いセンテンスでの会話なら何とかできる。でも、先生から『それで終わるな!会話を続けろ!続けろ!』と言われて、必死で頑張ったんですよね。実は僕、日本にいた頃は口ベタだったんです。会話力のない人間。それが毎日、英語で必死に話しているうちに、日本語でのコミュニケーション能力が上がったんです。『日本語で話すのはこんなにラクなんだ・・・』ってわかったんでしょうね(笑)」
語学学校ではトップクラスまでレベルアップした。ところが、その自信は木っ端みじんに砕かれることになる。「トップクラスに所属していると、インターンシッププログラムに申し込むことができる。僕は音楽のプロモーション会社で働くことになったんですが、これがびっくり、自分の話す英語はまったく通じないし、言っていることもわからない。語いの量もスピードも全然違ったんです。自信があった分だけかなりショックでした。でも、新しいイディオムを覚えたらすぐに使う、恥ずかしがらずにどんどん聞いて、話しかける・・・それを地道に繰り返すことで、乗り切りました。インターンシップの3ヵ月で、僕の英語力はかなり磨かれたと思います」 帰国後のことはインターンシップ中に考えた。「英語でコミュニケーションをする真の楽しさがこの3ヵ月でわかって、『帰国後はネイティブと触れ合えるような場所で働きたい』と強く思うようになったんです」。だが、留学中は就職活動はしなかった。「カナダにいる限りは語学力を磨くことに没頭する」ことが彼のポリシーだったからだ。「その分、帰国後はすぐに動こうと思いました。規模を問わず、やりたいことをやれる会社を探そう。自分がやりたいこと・・・すわなち、活きた英語を使えるところを見つけようって」 帰国後、3日とおかずに就職活動を始めた。留学ジャーナルでキャリアカウセリングを受け、エージェントにも登録。インターネットや本で、自分のやりたいことにマッチする会社を求めた。「探したのは、第二新卒及び中途採用を募集している会社です。15社ぐらいエントリーして、面接を受けたのは5社。探しながら『僕がやりたいことは、商社かメーカーの海外事業部なんだ』と絞られていったんです。もちろん面接では、『たかだか1年の留学で・・・』『職務経験がなくてお話にならない』みたいなところもありました。でも、そんなの留学前から覚悟していましたから。僕は自分が留学したことを後悔してないどころか、大満足だと思っている。だから面接で何を言われようが、くじけることも、落ち込むこともなかったですね」 その気合が通じて、小田さんは2社の内定を獲得。現在は商社で「想像以上の英語漬けの日々」を送っている。「留学をして、僕はコミュニケーション力と行動力が身についたと思っています。昔は出無精で、失敗を恐れる小さな人間だったのに、今は自分の考えを伝えられるし、やりたいことにチャレンジする強さがあるんです。仮に、何らかの理由で会社をクビになったとしても、ほかでやっていく自信だってある。その強さをくれたのは留学なんです」 最後に小田さんは、「既定路線で物事を考えるのをやめると、視野が広がるんですよ」と語った。「高校に行って、大学に進んで、新卒で大手企業に就職をする。そんな既定路線をかつての僕も持っていました。でも、僕は自らその道を外れたわけじゃないですか。そのお陰でいろんな未来が見えてきたんです。『人生の道はひとつじゃない』。そう思うとすごく気がラクになって、いろんな可能性に向かっていけるような気がするんです」
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