日本の大学4年次を休学し、カナダ・バンクーバーで語学留学とインターンシップを体験した片柳愛美さん。インターンシップ先は日本人スタッフのいない長期滞在型のホテル。フロントとして現地スタッフからも認められる人材に成長するまでに経験した苦い思い出とは?エネルギッシュな片柳さんの就職活動ストーリーを聞いた。
中学の頃、アメリカボストンに2週間ホームステイをしたことがきっかけで、海外に憧れを持つようになった片柳愛美さん。高校は国際学科を卒業し、大学では必ず留学すると決めていたものの、ウィンドサーフィンの部活動を途中で投げ出すことができず、念願の留学は部を引退する大学3年修了後に。
「自分がやると決めたことは、なんでも最後までやり遂げたいタイプなんです(笑)。留学も大学2年次修了後であれば、帰国後余裕をもって就職活動できたんでしょうけど、部活動を最後までやり遂げたくて。結局、帰国したのは3年次の1月、すでに同級生は就活をスタートさせている時期になりました。留学前から就活のスタートが遅れることは分かっていたので、出発前に就活の流れや方法についてセミナーを受けておきました。マイペースでやりたいから、そのための準備はしていました」と語る。
留学先はカナダのバンクーバー。語学研修を半年間、インターンシップを3ヵ月間経験する計画だ。「インターンシップの前準備として、語学学校ではディベートやプレゼンテーションなど、実際に働く現場で必要な英語力とスキルを身につけました。高校が国際学科ということもあり、リスニングとスピーキングにはある程度自信がありましたが、リーディングとライティングに不安を持っていました。日々の授業を大切にすることで、最初は450点だったTOEICのスコアを800点まで伸ばすことができました」。
語学研修終了後のインターンシップ先は、映画の撮影クルーが滞在するような長期滞在型のホテル。日本人は片柳さんしかいない中で、フロントスタッフとして世界中からやってくる旅行者の対応を行った。
インターンシップをするなかで特に成長を感じた出来事があった。「あるヨーロッパの国からやってきたお客様から怒られたことがあったんです。"英語の分かるスタッフはいないのか"と言われ、とても傷つきました。でも、その経験から、そのお客様の表情や状況、時間帯などから、お客様に求められる可能性があることについて、前もって準備をしておこうと思ったんです。そのためにはホテル全体のことを把握しておく必要がある。辞典ほどもある分厚いマニュアルを読み込んで、接客のマナーやホテルの方針はもとより、ハウスキーピングの仕事や周辺エリアの情報などを懸命に覚えました」。
英語が母国語ではない旅行者も多く、なまりが強くてなかなか理解しづらかった言葉も、お客様の状況を把握することでコミュニケーションがスムーズにとれるようになった。「英語は"ツール"なんだと実感しました。相手を理解するということは言葉を単に理解することではなく、想像して思いやることなんだと気づかされました」。それからは徐々に自信もつき、ホテルの即戦力として業務を一人前にこなせるように。急なトラブルにもきちんと対応できるようになっている自分に、日々充実感を覚えたという。
約1年間の留学を終え帰国してからは、事前に就活の流れを把握していたこともあり、スムーズに活動を開始。留学前から就職先としてホテルや航空会社などのホスピタリティ業界を希望していた片柳さんは、50社ほどにエントリー。そのうち約30社のテストや面接を受け、最終的に外資系ホテル2社、航空会社1社、クルーズ関連会社1社からの計4社から内定を受ける。
「私が受けた会社の多くが"留学しました、英語を話せます"ではアピールにならない状況でした。例えば、外資系ホテルの面接では、5人中5人全員が留学経験者。私はホテルでのインターンシップ経験があり、即戦力としてフロント業務をこなした経験があったからこそ、内定をもらえたんだと思います」。
内定をもらった4社のなかで、最終的にクルーズ関連会社を選んだ片柳さん。会社説明会や面接を受けていくなかで、クルーズ会社から内定が出たらそこに就職しようと決めていたという。「バンクーバーはすぐ近くに海や山があり、自然と共存している街です。多くのクルーザーが停泊するハーバーがあちこちにあり、クルーズ関連の会社もたくさんありました。大学でウィンドサーフィンをしていたこともあって大好きな海で働くことに興味を持つようになりました。いろんな国を見られるし、クルーズ業界は乗船が長い分、まとまった休暇がもらえるというのも魅力でした。その休暇を利用してまた留学したい、と思っています」。
「経験と思い出が財産です」という言葉をキャッチフレーズに、就職活動をした片柳さん。クルーズ会社は、まさに多くの人の思い出や経験に関わる仕事だ。片柳さんがこれまでの人生で経験した出来事すべてが必然的に積み重なって、たどり着いた先がクルーズ会社への就職だったのかもしれない。
片柳さんは、出発前からホスピタリティ業界への強い思いがあり、帰国後もその軸はぶれていませんでした。ただ、「いろんな経験をしてきたけれど、具体的にどうアピールしたらいいか分からない」とおっしゃっていました。インターンシップでは、繁忙期のホテルでたった1人の日本人スタッフとして働き、周囲から「ベストインターン」と呼ばれるほど活躍したのですから、アピールポイントは十分にあるはずです。でも、それをエントリーシートにどう書けばいいか、悩んでいたのです。
「ベストインターンと評価された」という事象だけをエントリーシートに書いても伝わりません。なぜそう評価されたのか、理由が伝わらなければ意味が無いのです。様々なエピソードをお聞きするなかで、特に成長したポイントは、「お客様から怒られたこと」。そこからどうすればいいかを自分で考え「全体を理解する」という解決策を見出し実践したことが、彼女の成長の証であり、「ベストインターン」と呼ばれる所以でした。この"ストーリー"があって初めて、説得力のある経験として他人に伝わります。特に、うまくいかなかった経験は、人を成長させるターニングポイントなので、そこを中心に"ストーリー"を伝えると、自己アピールにつながります。
また、片柳さんのケースで感じたことは、彼女の経歴からするとホスピタリティ業界へのアピールは十分だったので、あとは、それぞれ個々の会社に対して「オンリーワンの理由」を見つけていくことが必要だと思いました。どうしてA社ではなく、B社がいいのか、ということを掘り下げていく作業です。これまでの経験の中から、それぞれの会社につながる経験を見つけ出し、志望動機に盛り込んでいくのです。このように、計6回カウンセリングを行いながら、一緒に「アピール方法」を模索していきました。
片柳さんはインターンシップ以外にも、語学学校に所属していながら、自らダグラスカレッジのダンスサークルに連絡して入部したり、インターンシップ後にもう少し経験を積みたいと、クリスマスマーケットのボランティアに応募したりして、積極的に活動していました。そんな彼女の"積極性"と情報をキャッチする"アンテナ"こそが彼女の最大の強みです。また、やりたいことはゼッタイやるという、いい意味のどん欲さと、何があってもやり遂げるというタフさも彼女の持ち味。就職先のクルーズ会社でも、これらの強みを発揮して大いにご活躍されることでしょう。
※カナダでは2015年より語学+インターンシップはできなくなり、ボランティアのみ可能となっています。