大学を休学して1年間シアトルに語学留学をした亀谷春瑛さん。1年間の語学留学の経験を就職にどう活かしたのか。海外生活で気づいた“日本の良さ”を世界に広めるべく海外営業という道を選ぶまでにたどった軌跡とは?マイペースで奮闘する亀谷さんに、留学生活と帰国後の就職活動の方法について話を聞いた。
「大学を休学して、1年間留学をしようと思った純粋なきっかけは、海外を旅して学生時代にしかできないことを体験したい、ということでした。それと同時に、両親が築地で水産業を営んでいるので、将来的に家業を継ぐことを考えて、今のうちに英語をきちんと習得しておきたいと。これから海外との取引が増えるだろうと思ったんです」。
そう正直に話してくれたのは、昨年春から繊維会社で働く亀谷春瑛さん。留学先はアメリカの語学学校。帰国後の就職活動では「なぜ同じ学校に1年間いたの?転校は考えなかった?」と面接官によく聞かれたという。
「自分でも後悔しています。同じ学校にとどまらず、大学付属の語学コースに転校して、大学の講義を聞いてみるなどレベルアップするべきだったと。できなかったのは単純に"自分の力不足"です」。
亀谷さんは謙虚に語るが、1年間の留学中、語学学校での英語学習に留まっていたわけではない。
もともと英語は苦手。留学当初は先生やクラスメイトが話していることが全く理解できなかった。友達ができず、いつも一人。そんな亀谷さんが変わったキッカケは、サウジアラビアからの留学生と友達になったことだった。
「語学学校では、お互いノンネイティブ。失敗しても恥ずかしがる必要はないんだなって。文法が多少間違っていても、お互い話そう、理解しようという気持ちがあれば仲良くなれるんだ。そう開き直ることができてから、英語を学ぶことが楽しくなってきたんです」。語学学校の先生や友達と話すうちに、次第に会話に自信も出てきた。ネイティブの友達も作りたいと思うようになり、始めたのが"カフェ通い"だ。
「実際の生活では、語学学校の友達同士のように会話が通じるわけじゃない。使える英語を身に付けるには、自分で訓練しなくてはならないと感じました。そこで思いついたのがカフェ。日本でコーヒーショップのバイトをしていたので、大好きなコーヒーを通してなら、ネイティブの人と会話もしやすいだろうと。休み時間や放課後、近くのカフェに行くことを習慣にして、現地のネイティブの人たちに自分から話しかけて、学校で学んだ言い回しを実践、聞き取り力を鍛えました」。毎日通ううちにショップのスタッフとも顔見知りになり、最終的にはパーティやドライブに誘われるほどの仲に。
人見知りで消極的な性格だったという亀谷さん。留学中に自分に課した"カフェ通い"という試練を通してネイティブの友人ができ、TOEICも730点まで飛躍的に向上した。「さらに、自ら考えて行動できる積極性が身に付き、マインド面でタフになれたと思います」。これがその後の就職活動に役立ったと自己分析する。
留学中はネットでどんな業界や企業があるかをチェックする程度。亀谷さんが本格的に就職活動をスタートさせたのは、日本に帰国した後だった。
「就職したい業種も決めきれていなかったし、どうやってエントリーシートを書けばいいのか。まったくわかっていませんでした。そこで留学ジャーナルのキャリアカウンセラーさんに相談。留学を通して感じたことや、漠然とした将来の夢を話すうちに、だんだん自分の考えが整理され、行きたい業界や職種、将来の夢が明確になってきました。また面接試験の事前練習をさせてもらったことも、とても良かったと思います」。
業種を絞る際に決め手となったのが、海外生活での経験だった。「海外で魚を食べて、初めて日本の魚のおいしさがわかったんです。実家が水産業ということもあり、今まで特別においしいと思わなかったんですが、格段に違う。魚以外もそうです。改めてみてみると、食材、食品はもとより、日本のあらゆるものの質が高いことに気が付きました」。日本の食のレベルの高さ、モノの品質の高さに改めて驚いたという。
「そこから日本の食やモノ、技術をどうやったら海外に広められるのだろうと考えるようになったんです。将来的には家業を継ぎたいと思っているので、海外営業という軸で就職活動を進めていきました」。
様々な業種の会社を受ける中で決めたのが繊維会社だ。
「将来的に自社製品を海外に売り出したいと考えていて、英語が使える人材を求めていたので、ちょうど会社のニーズと自分のやりたいこととが一致したんだと思います。実際に英語を使って海外営業をすることになるのは、2~3年後だと思いますが、日本の商品や技術を提供することで、海外の人に喜んでもらいたいんです」。
まずは就職先の繊維会社でしっかり修行をして、英語と営業スキルを磨き、ビジネス経験を積んだうえで、ゆくゆくは家業をサポートする夢を描いている。
「以前、輸出関連の話し合いで、父にベトナムへの出張の話があったのですが、英語ができないという理由で断ったそうなんです。今後はそんな機会が増えると思うので、将来的に自分がサポートできたらと思っています」。
就職活動を通して見えた具体的な将来プラン。亀谷さんの挑戦はこれからも続く。
亀谷さんの場合、帰国が3年次の3月だったので、すでに周りの学生は就職活動をスタートさせているという時期的なハンデがありました。当初、ご自身では漠然と流通業界に就職したい、という希望をお持ちでしたが、なぜその業界を目指すのか、どんなところに興味を持っているのかなど、質問を繰り返すうちに、答えに詰まる場面が多く見受けられました。亀谷さんのように、就活当初は「やりたいこと」が明確ではなく、親や先輩、友人の意見に影響されて、「自分のやりたいことは〇〇だ」と思い込んでしまうケースは多々あります。冷静に「自分はなぜそう思うのか」と繰り返し質問してみて、答えが出てこない場合は、本当の希望がそこにないことがよくあるのです。自問自答するのは難しいので、学校の先生やキャリアカウンセラー、友人、家族に、その掘り下げる作業を一緒にしてもらえるよう頼んでみてください。そうすると、自分の本心が確認できるでしょう。曖昧な動機というのが就職活動では最もNGなのです。
では、どうやったら本当にやりたいことを見つけられるか。自分が楽しかったり感動したりして人に伝えたい経験を思い出してみてください。そこから自分の興味や関心がどこにあるのかを見つけられることがあります。また、就職活動のなかで、会社説明会での話や先輩社員の話などを聞いて、共感したり、自分もやってみたいと意欲が自然と湧いてきたりすることで、自分のやりたいことが見つかるケースもあります。最初から、業界や職種を絞り込んで就職活動をするのではなく、就活をしながら見つけていく方法もあるので、焦らず進めてください。
亀谷さんは、ご自身では1年間同じ語学学校で過ごしたことを後悔しているようですが、そんなことはありません。自分の弱さを克服して、最終的にはネイティブの友達を作って、英語力も飛躍的に伸ばしました。その「Before-After」こそが、武器になるのです。人事担当者は、留学先で成長した証である具体的な「Before-After」のエピソードをもとに、その人の"伸びしろ"に期待をして採用します。インターンシップを経験していないからダメだ、とか、ボランティアや課外活動をしていないからアピールポイントがない、と諦めるのではなく、留学前の自分と留学後の自分を比べて、何が成長したのか、そうさせたのはどんな出来事だったのかを振り返ってみてください。自ずとアピールポイントがでてくるはずです。