自主的に帰る難民をさまざまな面から支援する
タイで人気の観光地チェンマイから飛行機で約30分、山深いミャンマーとの国境近くに阿部明子さんが勤務するメーホンソンの町がある。タイには9つの難民キャンプがあり、そのうち阿部さんはこの地域の2つのキャンプで難民の保護と難民問題の解決に取り組む。紛争から逃れてきた人、教育や医療を求めてきた人など、2つのキャンプで約1万2000人、タイ全体では10万2300人がキャンプで生活している。ほとんどがミャンマーとタイ国境近くに住んでいた少数民族だ。
「難民キャンプは定住のための場所ではないので、ここからアメリカ、カナダなどの第3国に定住する人もいますし、ミャンマーに帰れる日を20年近く待っている人もいます。私は自主的に帰る決断をした難民の支援をしています」
紛争が以前より落ち着いたことや国内外からの支援の減少、キャンプ内の仕事が減っていることなどから、最近、帰還を希望する人が徐々に増えている。UNHCRがミャンマー、タイ両政府と交渉し、昨秋には別の2つのキャンプから20世帯71人の帰還が初めて実現した。現在は阿部さんが担当するキャンプでも帰還準備が少しずつ進められている。
「まさに動き出したところです。帰還に際して受けられる支援、必要な手続きなどの情報を難民の方と共有するのが私の主な仕事です。でも、中には紛争のトラウマがあって帰還に否定的な人もいます。将来どんな生活をしたいですか、という問いかけから始めて、できるだけ対話をするように心がけています」
2001年7月米国ペンシルベニア州フランクリン&マーシャル大学教養学部へ交換留学、国際政治、国際関係等を専攻
2004年3月東北学院大学法学部法律学科国際法務コース卒業。国際法、国際政治学、平和学等を学ぶ
2004年~2005年国内外NGOでボランティア、各スタディツアーに参加、国連開発計画でインターン
2005年12月英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで「開発マネジメント」修士を修了
2006年7月JICA本部にてインターン(3ヵ月)
2007年3月オランダ Institute of Social Studiesにて開発・公共政策&マネジメント及びジェンダー(副専攻)修士。その後国内外の国際協力関係機関で主にアジアにおける人道と開発援助支援事業を企画、ミャンマー少数民族難民の帰還と平和構築に向けたコンサルティング、早稲田大学大学院で平和構築と人道・開発支援につき研究中
2015年3月国連平和大学・アテネオ・デ・マニラ大学にて平和学及びグローバル政治学修士を修了
2015年7月外務省平和構築人材育成事業研修生・和解と開発支援担当官として、国連開発計画事務所へ赴任。国内避難民の帰還支援事業を企画・実施
2016年6月UNHCRタイ・メーホンソン事務所へ准難民保護官(恒久的解決担当、JPO)として赴任
英語を使って人のため
社会のためになる仕事がしたい
阿部さんは中学、高校の授業などを通して途上国の現状やマザー・テレサの活動を知り、緒方貞子さんが国連難民高等弁務官として難民のために世界を駆け巡るニュースに触れたこともあって、国際協力に関心を持った。親戚に英語の先生がいて英語に親しんでいたので、英語を使って人のため、社会のためになることがしたいと、大学では国際法や平和学を勉強した。在学中にアメリカに1年間留学し、途上国からの留学生に出会う。国に貢献したいという彼らの真摯な思いに打たれ、阿部さんは国際社会で対等に世界平和のために働ける人になりたいと考えるようになった。
仙台での大学時代には、東京で開催されるセミナーを見つけては夜行バスなどで通った。
「国際機関を目指している人をはじめ、国内外のいろいろな人と友達になりました。人とのつながりを大事にしていると、自然と情報をキャッチできる環境が整ってきます。あの時代があったから今があると思っています」
大学卒業後はイギリスの大学院で開発マネジメントを専攻。さらにオランダで学び、コスタリカやフィリピンで平和構築について途上国や先進国から来た同級生と議論を交わした。その後は日本に戻り、外務省、JICA、NGOなどで平和構築、開発支援などを担当。国連開発計画でも活動して、中高生のころに描いた夢に一歩ずつ近づいてきた。国際機関を目指す人にはこうアドバイスする。
「国際協力には多くの分野があるので、何に関心があって、何の問題に心を揺さぶられるのか、自分の心を大切にしてほしいですね。いろいろな人に出会い、さまざまなチャレンジをしていけば、本当に好きなこと、得意とするものが見つかるはずです」