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変化の時代 あらためて考える「外国語学習」と「留学」の本質

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公開 : 2022.07.15

IT技術が急速に発達し、ボーダーレス化、グローバル化も進む現代。外国語を学ぶこと、海外で外国語を勉強することに価値はあるのでしょうか。留学をためらう人が抱きがちな疑問やモヤモヤを、留学相談のプロに投げ掛けてみました。

※本稿は『留学ジャーナル 2022年5月号』の記事を抜粋・再編集したものです。

教えてくれたのは

profile_img一橋大学 国際教育交流センター長
阿部 仁さん

日本の高校を中退後、アメリカの高校に入学し卒業。ピマコミュニティカレッジを経てミネソタ大学ツインシティー校に編入し、学士号を取得。帰国後は外資系IT企業に約6年9ヵ月勤務した後、再び渡米。ウエスタンミシガン大学で修士号を取得し、同大学でアドミッション・プログラミングコーディネーターとして留学生からの相談を受けていた。2007年より現職。留学生・海外留学相談室で学生にアドバイスを行う他、「海外留学と国際教育交流」などの講義を担当している。

外国語を学び習得する意義

口頭で適切にコミュニケーションを取れる

確かに、オンライン上で文字ベースのやり取りのみをする場合は人工知能(AI)を使った自動翻訳で事足りるかもしれません。しかし私たちが生きる現代では、公私を問わず対面・口頭でコミュニケーションを取る機会がたくさんあります。そこにはAIでは置き換えられないものがあるのです。

口頭のコミュニケーションであっても、旅行中の買い物など限定された状況下であればそれに特化したAI翻訳で相手と意思疎通を図れると思います。けれども日常生活における雑談や、ビジネス現場におけるディスカッションの場面では、AI翻訳に限界があると言われているのです。

なぜなら口頭でのコミュニケーションには複合的な力がより必要とされているから。例えば私たちは会話をする時、相手のバックグラウンドや知識量、場の雰囲気に合わせて内容を変えています。つまり話題が多岐にわたることや、補足説明を挟みつつ行き来することも珍しくありません。さらに主語などが省略されていたり、文法的に正確でなかったりする場合も多々あります。

これらに対応する機能は現在普及しているAIにはないでしょう。今後いつ実用化されるかも分かりません。やはり自分で外国語を使えるに越したことはないのです。

人とのつながりをつくりやすい

"感情"や"気持ち"もAI越しのやり取りでは伝えにくいもの。自分が話の聞き手だった場合、AI翻訳機で正確度高く流ちょうに話されるより、たとえ拙くても一生懸命本人の言葉で話してもらえた方がその人の思いが伝わってくると思いませんか?逆もしかりで伝えたい思いがある時、できるだけ直接それを届けたいですよね。

また、自分の言葉が相手に伝わったときは満足感や喜びを得られるはず。するとコミュニケーションへの意欲が増し、次につながっていきます。同じ相手と何度も気持ちが通じ合えば相手への信頼感が生まれ、一方、他の人とも積極的に関わるようになれば交流の輪が広がるでしょう。

要は、「外国語を習得している=人と人とのつながりをつくる/深める/広げる重要なツールを持っている」ことになるのです。

外国と日本の文化・習慣を知れる

文化と言葉ってものすごく密接につながっています。まず一つ具体例を挙げましょう。日本では目上の人やまだそれほど親しくない人に頼み事を聞いてもらったとき、「ありがとうございます。お手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。」といった言葉を伝えることがよくありますよね。これには日本社会の気遣いの文化や丁寧さが表れていると私は思います。

ではアメリカだとどうでしょうか。私の実体験を基にすると"Thanks a lot!" の一文で終わることも普通です。この場合はアメリカ社会の、伝えたい情報を端的に発信することが好まれる様子が透けて見えます。

このように外国語を学び、定型文や自然な文の流れ、組み立て方を知ることは、その言葉を使う人たちの文化や思考、価値観の理解につながるのです。そして日本と対比することで、日本の特徴もつかめます。

ただ知っておいてほしいのは、外国語を使う際にその文化に染まり切る必要はないということ。私の場合、アメリカで相手を気遣う一言を付け加えたからといって嫌がられたことはまずなく、むしろアドバンテージになりました。日本の習慣が身に付いていて良かったと思いましたよ。

英語は趣味のアメフトでも武器に

現地の審判員たちとの写真.JPG

ウエスタンミシガン大学在学中、アメリカンフットボールの授業を通じ現地高校リーグの審判員たちと仲良くなり、私自身もその一員として活動するように。日本帰国後も審判としてグラウンドに立っています(上写真)。近年増えてきた外国人コーチや選手とのコミュニケーションにも、やはり英語は不可欠です。

海外で学び生活する、留学の意義

広い視野&長い目で留学を考えてみる

私は留学を、「自分らしい生き方を考え、それを主体的に実行していく力を育てる機会」だと考えています。なぜそう思うのか、身に付く力とは何かをこれから説明しましょう。

まず本題に入る前に皆さんに質問です。留学を通して得たいものは何ですか?私の経験上、「語学力」を真っ先に挙げる人が多いと思います。それに続くのが「○○学の最新知識」「異文化交流の機会」「新しいことに挑戦するチャンス」など。もちろん、留学に憧れはあるけど強い目的意識はない、という人もいますね。

では、実際に留学を終えた人は何を得たと感じているのでしょう。人によって経験の内容が違うので多種多様ではありますが、私がヒアリングしてきた中では「語学力」を一番に答える人はそれほどいません。「多角的・多面的な物の見方」「異文化を受け入れる力」「友人、人とのつながり」などの方が先に出てきます。

そう。面白いことに、留学前の人が考える"得たいもの"と、留学後の人が考える"得られたもの"には少し差があります。前者はスキルや専門知識、体験そのものが多いのに対し、後者はそれらを通じて手にしたものが多いと言えそうです。

また、"得られたもの"は相互に作用して、自分を見つめ直したり新たに行動を起こしたりするための推進力になります

例えば、
バックグラウンドの異なる友人ができ、物事を多角的に捉えられるようになる

考え得る将来の選択肢が増える、など。

実際、留学を経て「何がしたいか/何になりたいかを自分で考えて、自分がやるんだ」という意識を持つようになる人をたくさん見てきました。

この文章を読んでいる人の中に留学するか迷っていたり、その成果に懐疑的だったりする人がもしいたら、前述の留学前のイメージと留学後のリアルな意見との差を少し意識してみてほしいと思います。あなたの思っている留学の意義は、その一面にすぎないかもしれません。

留学のデメリットもゼロではないけれど・・・

ちなみに留学経験者は"失ったもの"についてもリアルな答えを持っています。過去には「恋人」「日本的な考え方」「まったりとした学生生活」なんて意見も目にしました。

しかし、それでも留学して良かったと結論付ける人が大半です。これは言い換えれば、「失ったものやデメリットより、得たものやメリットが大きい」と考える人が多数派だということだと思います。

語学留学だって可能性を秘めている

ここまでで簡単に説明してきた留学の意義は、もちろん語学留学にも当てはまります。語学力の向上を主目的に留学しても、現地での行動次第でさまざまなものが得られるはずです。だからこそ、その未知数さを楽しみにとりあえず留学してみてください!そしてその「やってみよう」という気持ちを、これからも大事にしてほしいです。

留学経験者へのアンケート結果から見る留学の意義

留学を通じて何を獲得できるのか。語学留学をする意味があるのか。留学経験者へのアンケート結果を参照しつつ、一緒に考えていきましょう。

※出典:「平成30年度海外留学経験者追跡調査 報告書」(日本学生支援機構)
アンケート対象:過去15年以内に海外留学を経験している20~40代の一般の日本人
留学形態が「語学習得のみ」と答えた638人のデータを抜粋

Q.留学で「得たもの」と「失ったもの」を3つお答えください

A.留学で得たもの:TOP5

  • 異文化・国際感覚:39.3%
  • 広い視野:33.1%
  • 語学力:21.3%
  • コミュニケーション力:20.5%
  • 友人:20.2%

A.留学で失ったもの:TOP5

  • 失ったものはない:53.3%
  • お金:34.5%
  • 年月・時間:6.3%
  • 人間関係・友人・恋人など:5.6%
  • 自信:4.1%
  • 転職活動の好機:3.9%

留学で得たもののトップ5を見ると、アンケート回答者たちは留学中、渡航先の国・地域で暮らすローカルの人々はもちろん各国から集まる留学生ともコミュニケーションを取り、刺激を受けつつさまざまな力を養ったと推測できます。

一方、留学で失ったものについては「ない」という回答が過半数を占める結果に。次いで「お金」が3割以上。また就職や進路に関するものについては、いずれも3%程度。語学留学がキャリアに悪影響を与えるケースは少ないことがうかがえます。

Q.所期の目的や計画を達成したと思いますか?

A.アンケート回答結果1

Q.ご自身の留学に対する総合的な満足度をお答えください

A.アンケート回答結果2

Q.どちらかというと留学経験は今後(も)役立つと思われますか

A.アンケート回答結果3

アンケート結果まとめ

目的や計画の達成度に関しては「十分に達成した」「かなり達成した」の合計値から、期待していた成果をある程度出せた人が半数以上いたと分かります。留学の満足度を問う質問には「非常に満足」「満足」と答えた人が計約58%だったのに対し、「非常に不満」「不満」は計約2%にとどまりました。

また留学経験が今後役立つと答えた人は約9割。この結果から、留学生活中の良かったこと・悪かったこと全てをひっくるめて考えた末、留学は将来につながると判断した人が多い、と言えます。

一歩踏み出せない方のための留学お悩み相談室

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留学を考える人からよく寄せられるという質問をまとめて阿部さんにお答えいただきました。ご自身の抱えるモヤモヤと一致するものがあれば、阿部さんからの回答をぜひ参考にしてみてください。

お悩みQ1.目的がはっきりしていなくても、留学を決めていい?

お悩み1――留学に憧れがありますが、今のところ明確な目的はありません。こんな私でも留学していいのでしょうか?


A.もちろんです。とりあえず行動してみましょう!

私は普段大学生からの留学相談に乗っていますが、同様の悩みを抱えている人はかなり多いですね。

留学するか否か決断し切れない学生たちに私がいつも言っているのは、やってみたいんだったら挑戦すればいいということ。目的や目標を早い段階で決めてそれを貫く人もいれば、留学準備の過程や留学中にやりたいことがはっきりしてくる人、途中で変える人だっています。

だから留学するか決める段階で悩み過ぎないで。自分を取り巻く状況とお金、人によっては家族からのサポートに問題がないのであれば、すぐにでも一歩を踏み出してみましょう!

また休職・退職への不安がある社会人の場合は、留学中~後のストーリーを思い描いてみてください。私自身、社会人7年目でのアメリカ留学は人生において最も不確実で不安なチャレンジでした。しかし「大学院でカウンセリングについて勉強し、将来はアメリカの大学への留学を手助けする留学カウンセラーになるぞ!」と筋書きを考えるうち、わくわくする気持ちや自分と家族を突き動かすエネルギーが生まれるように。自分の気持ちと向き合い、勇気を出して挑戦して良かったと思っています。

お悩みQ2.留学中の目標に迷ってしまいます

お悩み2――留学の目標をどうやって立てればいいか分かりません。


A.ノウハウのある人、メソッドを知っている人の手を借りるべき。

前の質問で、留学するかを決める段階では目的・目標をはっきりさせなくても大丈夫とお答えしました。

ただ出発前には現地で当面の間、取り組めるような目標を立てることをおすすめします。「目標=芯がある」ほうが苦しいときに踏ん張りが利きますし、それをきっかけに行動を起こしやすくなるからです。また、達成に向け計画を立てて実行し、結果を分析して次につなげるという一連の過程を体験してほしいという思いもあります。

もし設定方法が分からなければ、必ずそのサポートに慣れている人や方法を知っている人を頼ってください。例えば一橋大学では、学生は出発前にJAOS留学アセスメントテスト(行動特性・能力診断)を受検します。その結果から自分の特徴をつかんだ上でコミュニケーションに関する高めたい力を決め、それを向上させる方法を考えていくんです。

このように体系的に目標を定めていくことが大切なので、相談する相手は誰でもいいわけではありません!知識のない人の手を借りると、心の中にあるやりたいことにひも付かない目標ができかねません。

お悩みQ3.周囲に留学に詳しい人がいません...。

お悩み3――留学の体験談を話してくれる人や相談に乗ってくれる人が周りにいません。


A.オンライン上でコミュニティーを探してみて。一人で悩む必要はありません。

まず、留学に関して何かを決めかねたり解決の方法が見いだせないとき、経験や知識を持っている人の話を聞いてみようとする姿勢はとても良いと思います。一人でどうにか答えを出そうとするとどんどん視野が狭まる危険性もあるし、「Aかな、Bかな。やっぱりAかも......」と反すうして結論にたどり着かなくなりがちですが、複数人と意見交換すると意思が固まってきやすいです。

もし参考になる話をしてくれる人が知り合いにいない場合は、学生なら国際交流センターはもちろん、学内で留学や国際交流を促進している部活や学生団体にコンタクトしてみては?あとは留学ジャーナルのような、過去に留学生をたくさん送り出している企業・団体の力を借りるのもありですね。実体験を聞けるようなイベントやセミナーも開かれているはずです。

そうしたコミュニティーや場を探してつながる行為は、まさに今いる環境や住んでいる場所に関係なくオンラインでもできることなのではないでしょうか。

>>留学情報や体験談が聞けるイベント・セミナー(無料)はこちら

お悩みQ4.大学を休学したら就活でハンデを負わないか心配です

お悩み4――大学を休学して1年ほど留学すると、その分卒業が遅れてしまいます。就職活動で不利にならないか心配です...。


A.卒業時期が遅くなったことだけを理由に損をすることはないはず。

学生たちと話していると、この話題も本当によく出ます!大学に現役合格した学生からすると、卒業時期の1年の遅れはとても重大なことのように思えるのでしょう。また1年浪人して入学した人はトータルで2年遅れになるわけですから、ますます焦りが生まれてしまうようです。みんなすごく真面目ですよね。

しかし私に言わせれば、その悩みは全くの杞憂。なぜなら少なくとも私は、卒業が遅くなったこと"だけ"を理由に就活で痛手を被ったという話は聞いたことがありません。

企業側が見ているのは「休学した分、何をしたのか。何を学んだのか。その経験を生かして活躍してくれそうかどうか」ですから。逆に言えば、休学した分の収穫を得て、それをきちんと採用側に伝えることができれば良いんです。

それに個人的にはこうも思います。70歳まで働くとすると、ストレートに22歳で就職したら48年仕事をしなきゃいけないわけです。その48年が47年、46年に縮まるってうれしくない?って(笑)。

雑誌『留学ジャーナル 2022年5月号』は語学留学特集

『留学ジャーナル 2022年5月号』は語学留学特集!コロナ下でも成果を上げたい・将来につなげたいと考える方々に向けて、語学留学の基礎知識から、コロナ下留学の注意点、コロナ前と変わった点について解説しています。
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EDITOR

雑誌『留学ジャーナル』編集部
本稿は、雑誌『留学ジャーナル 2022年5月号』の記事を抜粋・再編集したものです。

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