留学やワーホリなどの経験を帰国後の就活やキャリアにどう生かせばいいのか分からない、という悩みを持つ人も多いです。そこで、自身も海外経験を持つ企業の人事採用担当者に、海外経験を就職に生かすためのコツを教えていただきました。
教えてくれたのは
ホスピタリティ業界で必要とされる5つの要素や、留学やワーホリで積んでおくべき経験、ホスピタリティ業界を目指す就活生の本音・不安などを、森ビルホスピタリティコーポレーションの方にお聞きしました。
森ビルホスピタリティコーポレーション
人材マネジメントグループ マネージャー
石原 勇太さん
<経歴>
高校卒業後、ニュージーランドに渡航。語学学校を経てパーマストンノースにあるMasseyUniversityに入学。資源環境計画学を4年間学び学士号を取得する。帰国後は建設コンサルタントに入社した後、ホスピタリティ業界に転身。旅館や外資・日系両ホテルにてサービス・人事担当業務を行う。2018年より現職。面接官、採用戦略の旗振り役を務める。
ホスピタリティ業界で必要とされる5つの要素
(1)ホスピタリティ精神
皆さんはホスピタリティって何だと思いますか?
採用活動中『”一人一人のお客様に合ったおもてなし”をしたい』という応募者にその意図を尋ねると『レストランでお客様のグラスの水が減っていたら、すぐ注ぎ足します』という答えが返ってくることがあります。
しかし、それは本当にその方に合った対応でしょうか?少し厳しいようですが、私からするとマニュアル化された基本作業に過ぎません。
お客様の様子に目を配り、例えば上着を羽織った方には水ではなく温かい飲み物をすすめたり、膝掛けをお渡ししたりする。そうした”お客様の本当の要望に気付き、それに合うサービスを提供・提案する”のが接客業の本質、ホスピタリティです。
(2)協働する力(チームワーク)
当社では特に”チームワーク”を重視しています。一人のスタッフが一人のお客様の接客を終始担当できるわけではないからです。ホテルの受付業務の場合、あるお客様のチェックインとアウトをそれぞれ別のスタッフが担当することもあるでしょう。必ずしも全ての時間に立ち会えるわけではないからこそ、チーム全体でお客様の好みや頂いたお言葉など、全ての情報を共有し合い、お客様にとってより良い一日を作り上げる必要があるのです。
(3)創造力
これまではお客様が求めるものをその場で”想像”し、提供につなげていました。しかしコロナの影響を受け主要顧客であった国外のお客様は激減し、ホテルの価値を改めて考え、新しい利用法を”創造”する必要性が出てきています。現在、ワーキングスペースとして客室を利用される方、バカンス目的のお客様が増えているように、ビジネスを継続するためには時代に適応しながら新しいサービスを創り出す力が必要不可欠です。
(4)語学力
社内でキャリアアップしていきたいと考えているのであれば、英語は避けて通れません。特に外資系ホテルでは外国人が管理職に就いているケースが多く、売り上げやトラブルなどの報告は全て英語です。また外国籍の従業員も増えています。今後、国外のお客様は再び増加すると予想されますし、社内外を問わずコミュニケーションツールとして基礎的な英語力は必要になります。
(5)世の中の動きへの興味・関心
ホスピタリティの現場は社会の縮図になっていると思います。業績を上げている業種の宴席や、異業界の社長同士の会食予約が入ったりと、リアルな世の中の動きが直に反映されています。毎日欠かさずニュースを見たり、新聞を読んだり、Instagramをチェックしたりして世間の動向や流行を知ることが、ひいてはお客様を知るヒントになり、より行き届いた接客につながっていくんです。
留学やワーホリでどんな経験を積んでおくべき?
何か芯の通った行動や挑戦を!
留学やワーホリを経験された方はたくさんいますが、中でも採用活動で目を引くのは行動に一貫性のある方です。どんな目標を持って渡航して、現地でその達成のために何をしたのか。そしてその体験が帰国後の企業選びにどのようにつながり、入社後どう生かせそうか。そこの筋が通っていれば、例え1年間の旅行だとしても十分評価に値すると思っています。
ホスピタリティ業界で働きたいと考えている人は、留学中にぜひ『他者を理解・尊重しようとする力』を養ってください。日本と比べ多様な人々、異なる背景の人が暮らす環境でその価値観や考え方を受け入れ、理解しようとした結果、広い心や視野を持てます。こういった力は接客やチームワークにおいて大いに生かすことができるでしょう。
どんなことにも一歩踏み出してチャレンジしてみる
また、あえて新しいことや苦手なことにチャレンジしてこれまでとは違う自分に出会うべきだと思います。一歩踏み出せば今まで出会えなかった人に出会えたり、何かを学べたりする機会が生まれますよね。苦労して身に付けた経験ってなかなか忘れるものではないですし、こういったチャレンジ精神って社会人になった後も周りの人と差を付けていくために必要な力になっていきます。
海外で過ごせる時間はあっという間に過ぎるので、強い覚悟を持っていないとそれほど変わらずに帰国日を迎えることになります。街の掲示板をチェックして、教会のイベントやスポーツクラブなど現地の方が集まるコミュニティに飛び込んでみるとか、ローカルな企業やカフェに直接レジュメを渡しに行くなど、積極的に動いてみてくださいね。
石原さんの留学中の挑戦について教えてください!
私が留学した2000年代当時からニュージーランドは環境保全の先進国でした。もともとその分野に興味があり、現地ならではの学びを得たいと思っていたので環境に配慮した都市開発が研究テーマのBachelor of Resource and EnvironmentalPlanning(資源環境計画学)を専攻。
サステナブルの要素を意識した内容の講義が多く、そこでの学びを生かすためにフェアトレード製品を扱う雑貨屋でのアルバイトも3年ほど経験しました。環境保全への意識が高い地元の方や学生が集まるようなお店で、スタッフは地元の方やパプアニューギニア、トンガから来た学生たち。みなさん最初からフレンドリーに受け入れてくれました。
物価が安いこと、日本人が少ないこともニュージーランドの小さな町を留学先に選んだ理由なのですが、限られた時間の中で語学だけでなく文化も吸収したいという目標と、時間もお金もムダにしたくないという強い覚悟を持って行動していました。日本人との交流は極力避けていて、最低限のあいさつしかせず遊びの誘いも断る、とても嫌なやつだったと思います(笑)。
夏休みには先住民であるマオリ族が住む村に行き、現地の方と触れ合いながら文化を学ぶ体験をしたのですが、今振り返ればそういった経験をもっとしておきたかったなとも思いますね。
海外経験を就職・キャリアに生かすためのコツ
留学前の目標と、留学後の行動に一貫性を持たせる
芯の通った留学にするために、「留学中何をしたいのか」あるいは「留学後どうなりたいのか」など、留学前にしっかりと目標設定をしておきましょう。 そして留学中は、目標達成のために行動をすること。
ここでポイントなのが、ただ目標達成のための行動を取るのではなく、新しいこと・苦手なことにチャレンジをぜひしてください。
【例1】
- 留学前の目標:TOEICスコア〇点アップ
- 留学中の行動:ネイティブスピーカーと話す
【例2】
- 留学前の目標:友達を10人作る
- 留学中の行動:学校アクティビティに積極的に参加
【例3】
- 留学前の目標:その国の文化を学ぶ
- 留学中の行動:地元の人が集まる場所に足を運ぶ
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留学後、
「他者を理解・許容できる」「英語を気後れせず話せる」「チャレンジ精神がある」など、将来に役立つ力が身に付いてくる
“主体性”が就活成功への近道!
留学先では主体性を持って行動することが成功への近道。海外経験を通して、他者を理解しようとする力の他に「ホスピタリティ業界で必要とされる5つの要素」の中の”協働する力”や”語学力”も養うことができます。
【Q&A】ホスピタリティ業界を目指す就活生の本音・不安
Q1.ホスピタリティ業界で働くことの”魅力”は何ですか?
A.仕事の面白さや魅力の根底にあるものが「いろいろな方との出会い」だと感じています。接客のポジションで働いていた頃は、一般的に一生かけても出会えないような方達と接する機会があったのですが、自分とは住む世界が違う方の考え方や価値観ってすごく興味深いですし、勉強になります。また仕事で学んだことが私生活に生きて、私生活で学んだことが仕事に生きる、つながりの面白みを感じられます。
国籍や業種など、自分の知らない世界で暮らす方達への「一人一人に合ったおもてなし」って実はとても難しいものです。だからこそホテルの業務だけできていてはダメで、私生活でいかに好奇心を持って学び、自分の引き出しを増やして得たことを接客やその他の仕事につなげていくか、というところが重要になってきます。
そうしていくことでお客様との共通点が生まれ、私を通してホテルとのつながりを作ってリピーターになってくださることもあるんです。一生学び続けることができますし、これだけ人生勉強になる仕事って他にはないと思っています。
Q2.休学・休職したことがマイナスな印象になるのではと不安です。
A.もし留学を迷っている方がいるのであればぜひ挑戦するべきです。面接では日本でのブランク期間に何をしていたのか、という質問は必ずされるでしょう。ですが、前述でもお話したように、そこにしっかりとした目的と成果さえあれば全く問題ありませんし、むしろ他の学生と差を付けられるチャンスだと思います。
一年休みを取ってまでやりたいことがあったというのは素晴らしいことですし、勇気が要りますよね。「何となく海外に行きたかっただけなのかな」と企業側に思われないように、留学前から留学後に至るまで一貫性のある行動をしていたアピールをするべきです。私は面接時にそういった応募者がいたらどんなことをしていたのか、留学中の出来事を詳しく聞いてみたくなりますよ!
Q3.専門的なスキルや資格がないと内定をもらえないのでしょうか?
A.当社の場合は特別なスキルや資格は必要ありません。英語力の条件も特に設定していませんが、その理由は英語は入社後でも学べるものだからです。それよりも「目の前のお客様に何をしたら喜んでもらえるか」を常に考えられることの方が大切ですね。その気持ちは多少英語が拙くとも相手に伝わるはずです。
また、前述でもお伝えしたように協働する力を持っていることも重要です。ホテルにはフロントや調理、営業、マーケティングなど、さまざまな職種があり、それぞれの考え方が全く違うんです。
異人種や異文化の共存と言ってもいいほどに。意見がぶつかることも多々あるのですが、そういった場合でも「そういった考え方もあるんだ。その考えを生かせばもっと良いモノができるかもしれない」と一緒に働く仲間を受け入れ、尊重する姿勢が大切だと思っています。ですので、選考時には資格よりもそういった資質があるかどうか、というような部分を重視しています。
Q4.現在ホスピタリティ業界の求人はあるのでしょうか?
A.これまではコロナの影響で海外からいらっしゃるお客様の数が減っていましたので、当社も採用人数をずっと絞っていたのですが、コロナが終息していけば利用客数も採用人数も徐々に回復していくことは確かです。事実、2022年に行われた「DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」では新型コロナ終息後に観光旅行したい国・地域のトップが日本になっています。
今後はこういった海外のお客様にプラスして、現在のような新しい利用目的を持つ国内の利用客の方も増え、今まで以上に忙しくなっていくと思います。その事態を見越して、求人数を増やし始めた企業もあるようですので、全く不安になる必要はありません。当社も来年開業予定のホテルとレジデンスの新卒・中途部門で採用活動を行っています。
Q5.親や友達からホスピタリティ業界を目指すことを心配されています。
A.確かにコロナによって与えられた打撃は大きかったですし、またいつまん延防止等重点措置や緊急事態措置が適用されるかは分かりませんので完全に安定した業界とは言い切れないでしょう。もし本当にホスピタリティ業界で働きたいのであれば、会社選びがとても重要になります。
大企業でもホテル内のレストランをクローズしている所もあれば、ホテルそのものを売却した所も少なくない状況です。ですので、事前に企業のWebサイトのニュース欄を確認して、事業計画や業績に関する情報収集は必ずするべきです。これから事業を拡大していく会社は将来性が期待できると思ってください。
ちなみに当社は親会社で大手デベロッパー(土地や街の開発事業者)の森ビルによる安定した経営基盤の下、コロナ禍の現在でも事業を拡大中です。都市再開発事業に伴い、既存の外資系ホテル2軒に加え、来年はさらに2軒の開業を予定しています。他社と比較したときに、この状況下でも安心して精力的に働ける環境が整っているのが当社の強みです。
雑誌『留学ジャーナル 2022年8月号』は学ぶ・働く特集
『留学ジャーナル 2022年8月号』は1ヵ月~1年半の留学やワーキングホリデーを考えている方、そして現地でアルバイトやインターンシップに挑戦したい方に向けた1冊。カナダで就業中の留学生の体験談や、出発~帰国の間に起こり得る予想外の出来事への対処&回避法も掲載しています。
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