「留学したい!」という意欲はあるものの、パンデミック下の留学に不安を覚える人もいるはず。今、留学している人は何を思い、どのような生活を送っているのか。決意までのいきさつ、自己隔離中の過ごし方などもインタビューした。
TEXT : Yuri Murakami, Ryugaku Journal
※本稿は『留学ジャーナル2022年5月号』の記事を抜粋・再編集したものです。
※取材は2022年1月末に実施しました。
話してくれたのは
体験者 | 音なぎ 真琴さん ※「なぎ」はさんずいに「和」 |
国・都市 | カナダ・ブリティッシュコロンビア州 バンクーバー |
学校 | International Language Academy of Canada, Vancouver |
期間 | 2021年4月~2022年3月 |
出発時 | 22歳 |
留学前のこと
―コロナ下にあっても、留学を決意した理由をお聞かせください。
大学に入学した頃から留学に興味がありましたが、周りと違うことをする勇気がなく、一歩を踏み出せませんでした。自分が”普通”から外れてしまうような気がしたんです。それでも留学への興味は消えず、思いを内に秘めたまま大学4年生に。
そんな時、パンデミックとなり、社会環境や日常生活が大きく変化しました。それまでの常識が急激に変わっていくのを目の当たりにし、”普通”でありたいという私のこだわりは消えていき…。こうして吹っ切れたことで、大学卒業後に留学する決断がすんなりできました。
―なるほど。ある意味でコロナがきっかけとなったのですね。留学することに対する、周囲の反応はいかがでしたか?
誰にも相談しないまま決めたので、家族は私の決意を知って驚いていましたが、意志が固いことが伝わったのか、止められたりはしませんでしたね。ただ、母はニュースなどを見て、現地でのアジア人に対する差別を心配していました。
―ご自身はコロナ下での留学に不安はありましたか?
無事に渡航できるのかなと。それでも、入国さえできればその後は何とかなるだろうと考えていました。
―ポジティブですね!目標としていたことはありますか?
パニックにならずに英語を話せるようになることです。学生時代、外国人客の多いカフェでのアルバイト中に、しどろもどろな接客をしてしまった経験が何度もあるからです。「英語が分からない」ということさえ満足に伝えられない自分が嫌でした。あと、帰国後の就職活動を見据えて、TOEICスコアのアップも!大学4年生のときに受けたTOEICは380点くらいでした。
―留学先をカナダのバンクーバーに決めた理由は?
カナダは留学コストを比較的抑えられるというので候補にしたのと、希望していた街の雰囲気にバンクーバーがぴったりだったんです。私は都会が好きですが、海や山など、自然を感じられる場所も同じくらい好き。バンクーバーならそのどちらも楽しめると思いました。
―渡航準備で大変だったことは?
まずは、出発前のPCR検査です。渡航するには、英文の陰性証明書の提示が必要だったので、自宅で唾液をセルフ採取し、検体を送付する宅配検査をしました。 あとはパッキングが本当に大変で。
入国後のホテル隔離、その後のホームステイ先での隔離を考えて、思い付く限りの日用品を持参したので荷物がとても重くなりました。ちなみに、最も役に立ったのは延長コードです(笑)。隔離先のホテルにコンセントが少なかったので、モバイル機器を使うときに大活躍しました。
留学中のこと
―実際に通ってみて、語学学校はいかがでしたか?
とにかくにぎやか!あと、いい意味でカジュアルでした。知り合いが廊下を通ると、みんな授業中でも手を振ったりして。特に驚いたのが、ハロウィーンの日。仮装して授業参加OKだったのですが、仮装してくる人はわずかだろうと思っていたんです。だけど、ふたを開けてみると、生徒だけでなく先生すらも仮装していて!普段着だったのは私だけで、逆に浮きました。
―クラスの規模、生徒の国籍や年齢は?
クラスの人数は15人ほどです。当初は日本人が多く、それほど多国籍な環境ではありませんでした。日本以上に厳しい入国制限の対象になっている国や、ロックダウンをしている国もあったからです。
その後徐々にトルコ人が増え、それからヨーロッパ系やラテン系の人が多くなり、どんどん国際的な環境になりました。 クラスメートの年齢層は本当に幅広く、高校生や大学生はもちろん、子連れで留学している人もいました。
―それは驚きですね。印象的な先生はいますか?
はい。韓国にルーツを持ち、第一言語が韓国語の先生です。先生によって授業スタイルは異なり、例えばコミュニケーション重視の先生は話す機会が多く、文法重視の先生は座学の時間の方が長くなります。この韓国系の先生は完全な文法特化型。最初に授業を受けた時、私は会話をたくさんしたい時期だったので、すごくつまらなかったのを覚えています(笑)。
でも、先生のとにかく分かりやすい解説を聞くうちに、理解が深まり、納得感を得られるように。ネイティブではないからこそ、きっと留学生がつまずくポイントが分かるんでしょうね。学校にはさまざまな先生がいますが、とりわけ人気の先生は第一言語が英語でない人が多いように思います。
―英語力アップのために努力したことは?
ありきたりですが、できるだけたくさんの人と話すことです。同じ内容を伝えるのでも、人によって使う単語やフレーズが違うので、いろいろな表現に触れることで、自分の幅が広がります。
― ところで、オンライン授業の時期もありましたか?
ええ。基本的には対面授業であるものの、コロナの感染拡大状況によってはオンラインに切り替わります。カナダ入国後2週間は元からオンラインで参加予定だったのですが、その後の1週間もコロナの状況が芳しくなく、引き続きオンラインで授業を受けました。その後はずっと対面授業。2021年末にオミクロン株が流行し始めてから数週間は、またオンライン授業になりましたが、今は対面に戻っています。
個人的にはやはり対面授業の方が楽しいです。同じテーブルにいる人の意見が気軽に聞けるし、話す機会が多いので。オンラインだとどうしても先生の説明を聞く時間が長くなりますよね。
留学を通じて得た変化と成長
― 英語力の伸びは実感していますか?
特に伸びたと感じるのはリスニングです。これまで洋楽は聞き流すだけでしたが、歌詞の単語一つ一つが自然に耳に入ってくるとき、成長を感じます。 あと、目標としていた「パニックにならずに英語を話す」も達成できました!
夏までは頭の中で日本語を英語に置き換えながら必死に話していましたが、秋からは自分の言いたいことをさらっと口にできるように。カナダ入国時は、空港職員の説明が分からなくても聞き返せませんでしたが、今ならパッと英語で質問できる自信があります。
― その他、成長を実感しているところはありますか?
思考の幅が広がりましたね。国が違えば価値観や考え方も違いますし、日本人のクラスメートも、それまで日本で出会ったことのないタイプの人たちで。15歳から50代まで、今まで意識さえしなかった視点を持つ人たちと交流ができ、「なるほど面白い!」と感じることばかりです。
― 彼らとの交流を通して変わった部分はありますか?
イラン人のクラスメートと話していたときに、帰国後の話題になって。「就職活動が不安なんだよね」と伝えたら、「絶対に楽しいことを選ぶべき」と力強くアドバイスされたんです。彼女は小さい子どもを連れて学びに来ている精力的な人で、きっと今までもそういう姿勢で生きてきたんだろうなと。だからこんな風にすぐに言葉が出てくるし、かっこいいと心から思いました。
というのも、私は頭では「自分の人生は自分のもの」と思っていたのですが、両親や周囲の反応を気にしていろいろな選択をしていたところがあって。彼女を含めた留学先でのたくさんの出会いを通して、人生は一度きりなのに、その一度を周囲の評価を気にして過ごしてしまうのはもったいない、と心から思うようになりました。「人は人、自分は自分」と割り切るのは簡単ではないですが、これから先は自分が楽しいと感じられることを軸に、人生の選択をしていきたいです。
― もうすぐ留学を終えますね。帰国後、取り組みたいことを教えてください。
帰国したら就職活動を始めます。業界や職種は未定であるものの、留学を通じて、「問題を抱えている人たちに選択肢を与え、サポートできる人になりたい」という夢を持つことができました。留学前に比べたら、自分のしたいことが明確になってきたと感じますし、進んで取り組んでいける気がしています。
学校以外の生活はどんな感じ?一問一答!
バンクーバーについて
Q.バンクーバーの魅力とは?
留学前のイメージ通り、バンクーバーには都会らしさと豊かな自然が共存しています。中心部からちょっと足を延ばした所に、美しい森やビーチがあるのは、東京にはない良さだと思います。
友達について
Q.友達はどのくらいできましたか?
一緒に旅行をするような親しい友達が10~15人できました!国籍はメキシコやコロンビア、トルコなどバラバラ。放課後に遊ぶ程度の友達はもっとたくさんいます。
Q.日本人と違うなと思う点は?
私は特にラテン系の友人たちから影響を受けましたが、同時に国民性の違いも感じました。おおらかなので、決めた時間には絶対に来ませんが、私が遅れても何も言いません。あと、授業が面白くないとそれが態度に出るなど、とにかく素直で感情表現豊か。逆に感情をあまり表に出さない日本人は彼らからすると不可解らしく「日本人は何を考えているのか分からない」と言われたりもします。
フリータイムついて
Q.放課後や週末の過ごし方は?
学校が14時に終わるので、その後はほぼ必ずクラスメートと公園やビーチなどに遊びに行きます。週末には友人たちと遠出して、ハイキングなどを楽しんだりも。バスでシアトルに行ったり、飛行機でニューヨークを訪問したりと小旅行も満喫しました!
Q.最も楽しかったのは?
友達と一緒にバンクーバー島を訪れたのが最高に楽しかったです。フェリーで約2時間でアクセスできるのですが、バンクーバー市内とはまったく違う雰囲気で魅了されて。島の南端にあり、「花の都」と呼ばれるビクトリアは特にきれいで、州議事堂や庭園などを見て回りました。
新型コロナウイルスについて
Q.カナダ到着後の自己隔離について教えてください。
隔離期間2週間のうち、最初の3日間は政府指定のホテルで、その後はホームステイ先で過ごしました。1日が長く感じられ、この時が一番「日本に帰りたい」と思った期間でしたね(笑)。生活サイクルが乱れないように、毎日決まった時間に起きて運動するなど、ルーティンを決めて行動していました。
Q.現地のコロナ対策の様子は?
学校に入るには学校独自のワクチン接種証明書の提示が必要。授業中はマスクを着用し、消毒も小まめに行います。また、飲食店に入るには州が発行しているワクチンカードが必要であるため、未接種の人は行動範囲が限られますね。個人的には日本にいた時と同様、手洗いやうがいを励行しています。
Q.アジアンヘイトを含め、何かトラブルはありましたか?
渡航前に母が心配していた、アジア人へのヘイトは感じたことはありません……が、バンクーバーで感染者が激増していた2021年のクリスマスシーズンに私も感染しました!最初にルームメートがかかり、その濃厚接触者としてPCR検査を受けて陽性に。
ルームメートは発熱などの症状が出ましたが、私は幸いにも無症状だったので隔離中の5日間はひたすら暇で(笑)。食料のストックがなくなってからは、フードデリバリーを利用して切り抜けました。
食事について
Q.食生活はいかがですか?
多文化都市のバンクーバーでは各国の料理が味わえ、特にアジア料理は充実しているので困ることはありません。お気に入りのカナダ料理はプーティン。フライドポテトにグレイビーソースとチーズをかけたもので、一時期はいろんな店に通って食べ比べなどしていました。高カロリーなので、今は頻度を減らしています(笑)。
Q.節約のための工夫は?
基本的に外食はランチのみにして、夜は自炊をしています。外食するときもCA$10前後で済ませられるフードコートなどを活用。もちろん店にもよりますが、バンクーバーでの外食費は日本より若干高いくらいですね。
滞在先について
Q.どんな方法を選びましたか?
最初の2ヵ月はホストファザー、マザーと赤ちゃんのいる家庭でホームステイをしました。同じ学校に通うフランス人がハウスメートだったので、家のルールなど含め、いろいろ教えてもらえたのが良かったです。ただ、学校まで水上バスで1時間かかったため、その後は学校まで30分の所にあるシェアハウスで暮らしています。シェアハウスは、ネットで探しました。
Q.シェアハウスでの生活の様子は?
女性限定のシェアハウスで、インド人、フィリピン人、ベトナム人、日本人の合わせて7人で暮らしています。門限などもないので自由で開放的!スーパーで食材をまとめ買いして分け合ったり、ルームメートの母国の料理を味見させてもらったりして楽しいですよ。
雑誌『留学ジャーナル 2022年5月号』は語学留学特集
『留学ジャーナル 2022年5月号』ではコロナ下で海外渡航のハードルが高いけど、留学を実現させたい。海外で外国語を勉強してみたい。そう考える方に向け、”今だから”な語学留学の情報(英語圏中心)をできるだけ詰め込んでいます。雑誌の立ち読みはコチラへ。